発表

2C-012

親しい人への加害行為に対するゆるせなさに関する検討

[責任発表者] 沼田 真美:1
1:大妻女子大学


目 的
 ゆるし(forgiveness)は,被害によって生じたストレスを減少させる効果を持つ有用な概念である(Worthington, 2014)。ゆるしは,「自己および他者の被害や罪に対する否定的な内的反応を低減させ,中性的または肯定的な反応へ変容させること」(沼田,2019)と定義される。この定義にもみられるように,現在ゆるしの対象は,他者だけに留まらず,自己へも拡張されている(Wohl et al., 2008)。このうち,自己が被害を受けたことに対する他者への状態ゆるし(他者加害・自己被害)は,報復・回避・慈愛の3因子として測定され(TRIM-18;McCullough et al., 2006),反芻がゆるしを抑制することが明らかにされてきた(Besser & Zeigler-Hill, 2010)。沼田(2016)は,国内の大学生を対象として,ゆるせなかった出来事に関する自由記述調査を実施した。その結果,他者による親しい人への加害行為に対するゆるせなさがみられていた。さらに,沼田(2017)は,国内の大学生を対象として,ゆるせなかった出来事に関する半構造化面接調査を実施した。その結果,他者による親しい人への加害行為によるゆるせなさに該当する内容が21.0%みられた。他者による親しい人への加害行為に対するゆるせなさ(他者加害・他者被害)に関する内容が確認されているにも関わらず,十分な検討は行われていない。そこで,本研究では,他者による親しい人への加害行為に関するゆるしを測定する状態尺度を開発し,自己が被害を受けたことに対する他者へのゆるしと同様の関連がみられると予測し,自己注目や自尊感情,侵入的熟考との関連を検討することを目的とする。

方 法
調査方法 質問紙調査を実施した。
調査対象者 関東の国立大学および私立大学に所属する大学生111名(男性39名,女性72名,平均年齢19.58才,SD=1.64)を対象とした。
調査時期 2017年12月に実施した。
調査内容 沼田(2016)で得られた自由記述のうち,親しい人への加害行為に対する反応に関する内容について,TRIM-18(McCullough et al., 2006),他者へのゆるし傾向(石川・濱口,2007),HFS Other(Thompson et al., 2005),を参考として作成した独自項目21項目について回答を求めた。また, RRQ(高野・丹野,2008),熟考尺度(Taku,2015),自尊感情尺度(山本他,1982)について回答を求めた。
調査手続き 教示文は,「これまでに,親しい人(家族,恋人,友人等)が,別の他者から傷つけられた経験についてお尋ねします。その出来事に対する,現在のあなたの気持ちや考えについて,あてはまるものをひとつずつ選んでください」であった。5件法で回答を求めた。
本研究は,筑波大学人間系研究倫理委員会による承認を得ている(筑29-13)。

結 果 と 考 察
 全21項目に対し,最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った。初期固有値の減衰状況,解釈可能性から,3因子構造が妥当であると判断し,最終的に得られた因子パターンをTable 1に示す。因子負荷量の高い項目内容から順に,第1因子“不快感”,第2因子“歩み寄り”,第3因子“受け止め”と命名された。各因子のCronbachのα係数は,.73から.91の範囲であり,内的整合性は十分と判断した。また,得られた各因子に対して,相関係数の算出および重回帰分析(ステップワイズ,変数増加法)を行った(Table2)。
その結果,当時の反芻の程度である侵入的熟考が不快感へ正の影響および受け止めへ負の影響を及ぼすことが示された。因子内容に関して,TRIM-18と比較すると,不快感は,回避・報復を含む項目内容,歩み寄りは,慈愛を含む項目内容によって構成されている。受け止めは,対応する因子がみられず,他者による親しい人への加害行為に対するゆるしに特徴的な側面と考えられる。
謝辞 ご指導いただいた松井 豊(筑波大学元教授)に感謝申し上げます。

キーワード
ゆるせなさ/ゆるし/親しい人への加害行為


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