発表

2C-009

ジェンダー・ハラスメント的な職場環境の認知が職場・心理的適応に及ぼす影響

[責任発表者] 石井 国雄:1
[連名発表者・登壇者] 田仲 由佳:1
1:清泉女学院大学

 現代日本においては,男女共同参画社会を目指し,職場環境の改善のためのさまざまな施策が講ぜられている。その一方で,職場においては,「女性は仕事に向かない」「女性はお茶くみをすべき」のように,旧来の固定的な性役割分担観に基づく差別的な待遇(ジェンダー・ハラスメント)が存在し,女性の活躍を阻んでいると指摘されている。また,職場におけるジェンダー・ハラスメントの認知は就業女性の就労意欲を下げるだけではなく,心理的健康をも低めることが指摘されており(小林・田中, 2012; Piotrkowski, 1998),一般的な適応的な問題と言える。そこで本研究では,就労している男女を対象として,職場に対するジェンダー・ハラスメントの認知が職場に関する適応および一般的な心理的適応(例:主観的幸福感)に及ぼす影響について検討した。
方法
 調査実施および調査協力者 インターネット調査会社楽天インサイトの保有するモニターを対象に2018年11月にWeb調査を実施した。30歳から60歳の男女で,役員職ではない有職者(パート・アルバイト,派遣・契約社員,会社員,公務員・団体職員)を選定した。回答者は600名とした。うち,現在の職場に女性社員がいると回答した人528名(男性260名,女性268名)を分析対象とした(平均年齢44.41歳,SD=8.79)。
質問紙の構成
 職場のジェンダー・ハラスメント認知 小林・田中(2010)によるジェンダー・ハラスメント尺度(以下,GH尺度)を用いた(4件法)。現在の職場における女性社員の処遇を尋ねるものであり,下位因子として,「女性にお茶くみや雑用をする役割を期待する」など就業女性に対して男性に期待しない女性向きの役割を担うことを期待する内容(GH作為,6項目)と「女性はリーダーに向かないため,指導的役割を期待されない」など男性には積極的に担うことを期待する組織の基幹的な役割を女性に対してはむしろ担わないことを期待する内容(GH不作為,6項目)が含まれていた。
 職場に関する適応 下光(2000)による職業性ストレス簡易調査票より,ストレス要因17項目(A領域:仕事に関する負担感,4件法),ストレス反応29項目(B領域:心理的・身体的ストレス反応,4件法)を用いた。また,バーンアウト尺度(久保・田尾, 1992,5件法)により,情緒的消耗感(5項目),脱人格化(6項目),個人的達成(7項目)を測定した。
 心理的適応 主観的幸福感尺度(大石, 2009,7件法,5項目)を用いた。また,満足感(現在の仕事・家庭生活・生活全般に対してどの程度満足しているか,11件法(0-10点),3項目),選択の自由の感覚(自分の人生,生活(仕事以外),仕事においてどの程度選択の自由があると感じているか,10件法(1-10点),3項目)の尺度を独自に作成し用いた。
結果
 職場適応に及ぼす影響 ストレス要因A,ストレス反応B,情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成それぞれの合算平均を従属変数として,性別,GH作為,GH不作為,性別×GH作為,性別×GH不作為,GH作為×GH不作為を投入した,一般線形モデルによる多変量分析を行った。多変量検定の結果,性別,GH作為,GH不作為に対する1%水準 の有意な効果がみられた。個人的達成感を取り上げると,GH作為の強さは個人的達成感を低める一方で( p <.001),GH不作為は高める傾向がみられ( p <.01),これらの傾向に男女の違いは見られなかった。
 心理的適応に及ぼす影響 主観的幸福感,満足感,選択の自由の感覚それぞれの合算平均を従属変数として,同様の多変量分析を行った。多変量検定の結果,GH不作為(F (3, 519)=6.27, p <.001, partial η2=.04),性別×GH不作為(F (3, 519)=5.73, p <.001, partial η2=.03)が1%水準で有意となった。GH不作為については,主観的幸福感( p <.001),満足感( p <.001),選択の自由の感覚( p <.01)のすべてに対する負の影響が見られた。 性別×GH不作為につい ても,主観的幸福感( p =.01),満足感( p <.001),選択の自由の感覚( p <.001)のすべてに対する効果が見られた。主観的幸福感を取り上げると(Figure 1),女性においてGH不作為が高まるほど主観的幸福感が低まる傾向がみられる一方で,男性においてはそのような傾向は見られなかった。
考察
 就業者において,職場に対するジェンダー・ハラスメント認知の強さが,職場適応および心理的適応に影響を及ぼすことが示された。従来から,ジェンダー・ハラスメント的認知は女性の職場適応を弱めることが指摘されてきたが,主観的幸福感のような一般的な心理的適応にも影響していた。その一方で,GH作為のような女性への配慮に見える慈悲的扱いが職場適応を低める傾向もみられた。これらは職場におけるジェンダーの再生産に寄与していることが示唆されよう。
 本研究は清泉女学院大学共同研究費の助成を受けた。

キーワード
ジェンダー・ハラスメント/ワークモチベーション/心理的適応


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