発表

2B-018

キャリア多様化の時代におけるプロ人材への変容とキャリア転換?

[責任発表者] 宮下 太陽:1,2
[連名発表者・登壇者] サトウ タツヤ:1
1:立命館大学, 2:日本総合研究所

研究の目的と背景
 長寿化の進展により,世界は人生100年時代を迎えている。教育・仕事・引退という伝統的な3つのステージが通用しなくなり,仕事ステージの長期化と多様化が進むことが予測されている(Gratton & Scott, 2016)。国としても人生100年時代を見据えた経済・社会システムを実現するための政策のグランドデザインに係る検討を行い,「人づくり革命 基本構想」を取りまとめている(人生100年構想会議, 2018)。
 但し,キャリア多様化の時代において,具体的に個人のキャリア選択においてどのような変化が起こるのか,変化に対応するために組織,政府は新たにどのような仕組みを整備する必要があるのかという点については,まだ明確な回答が提示されていない。
 そこで,本研究では,まず個人のキャリアの多様化に焦点を充て,組織の中で十分に役割を果たしている個人が,組織を離れて新たなキャリアを選択する際のプロセスを明らかにすることに焦点をあて分析を行った。

方法
 TEA(複線径路等至性アプローチ)を用いて分析を行った。TEAとは文化心理学(Valsiner,2007)を土台とする質的研究の一手法であり,対象選定理論としてのHSI(歴史的構造化ご招待),径路を描き出す手法であるTEM(複線径路等至性モデリング),変容・発生を捉える理論であるTLMG(発生の三層モデル)の鼎立による統合的なアプローチである(サトウ,2015; 安田,2015)
 本研究では,研究者の最初の目の付け所であり,多様な径路の収束点である等至点(Equifinality Point; EFP)(サトウ,2015)として,「プロとしてキャリア転換する」という事象を設定し,当該事象を経験した方を7名ご招待した。ここでプロとは,Lave & Wenger(1991 佐伯訳1993)の正統的周辺参加理論において,組織に十全的に参加している方と定義した。7名のうち,性別は男性5名,女性2名であり,年齢層は60代1名,50代2名,40代3名,30代1名であった。
 インタビューは3回実施することを原則とし,1回目はまず対象者に自身のキャリアについてライフラインに記載していただき,その浮き沈みにおいてどのようなキャリアイベントがあったのか,キャリア転換を図るきっかけとなった出来事およびその決断に影響を及ぼした要因等について語っていただいた。
 2回目は,1回目の語りの内容をビジュアル化した資料と他の方の語りも踏まえて作成したTEM図とを相互に参照しつつ,語りの深堀を行った。
 3回目は,2回目のインタビュー内容を踏まえ修正した箇所の最終確認を行った。現在までに対象者7人中,3名までが3回目のインタビューを終えている状況である。

結果と考察
 本研究におけるTEM図はFigure1の通り。多様な径路をTEM図にまとめた上で,EFP に向かうことを妨げる力を社会的方向づけ(SD),その逆にEFP に向かうことを助ける力を社会的助勢(SG))(サトウ,2015)として整理した。
 本研究において,まずキャリアの展開には大きく3つの段階があることを見出した。1つ目はメンバーから組織におけるプロになる段階(受動的キャリア期),2つ目は組織におけるプロとして主体的に活動する段階(能動的キャリア期),3つ目は,組織を離れてプロとして多様なキャリアを築く段階(自立的キャリア期)である。
 次に,能動的キャリア期から自立的キャリア期への移行がキャリアの多様化を考える上での重要な分岐点(Bifurcation Point; BFP)となっていることを見出した。安田(2015)は,分岐点を,そこを起点にして径路が分かれるという意味で,当該ライフの転換点であり,そこでどのような変容が生じているのかという発想につなげていくことができるポイントとして概念化している。
 能動的キャリア期から自立的キャリア期に移行する分岐点(Bifurcation Point; BFP)について,複数の対象者が「枠が外れる」と表現した。これは,非可逆的な時間のなかでの拡張を習得することであり,その過程はバフチンに依拠すれば異種混交あるいは交響するポリフォニーとして特徴づけられる(Engeström,1987 山住他訳1999)。
 また,「枠が外れる」分岐点に影響を及ぼす記号として,特徴的だったのは,組織の状況と家族の状況である。プロとして活躍している個人が,組織と個人のベクトルがずれてきた状況において,子どもの独立など家族の状況が変化した場合に,枠が外れる分岐点を迎えていた。
 Lave & Wenger(1991 佐伯訳1993)がいう正統的周辺参加を経た十全的参加への移行がゴールになりえない時代において,どのようにキャリアを拡張することができるのか,今後分岐点における価値変容とそこでの深い経験づけ(Deep experiencing)(Valsiner,2019)に焦点をあて,変容・発生を捉える理論であるTLMGの理論を用いて研究を深めたい。

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