発表

2B-017

職を転じて福となすには
-転職時のリアリティ・ショックに対する自己概念明確性の調整効果-

[責任発表者] 片山 まゆみ:1
[連名発表者・登壇者] 藤 桂:2
1:河合塾, 2:筑波大学

 問題と目的
 2010年以降,再び転職者が増加傾向にあるとともに(総務省,2017),20~39歳の転職経験者のうち6割以上が2回以上転職していることも報告されている(厚生労働省,2016)。さらに労働政策研究・研修機構(2017)からは,転職経験者の45.3%が転職先を再度転職したいと回答していることも示されており,転職者の職場定着の難しさがうかがわれる。
 組織参入初期における職場定着を阻害する要因として,就職当初の期待と組織の現実とのギャップであるリアリティ・ショック(RS;Porter & Steers, 1973)が挙げられる。こうした,初期段階での幻滅経験が離職につながることは古くから示されており(Dunnette et al.,1973),近年の研究からも離転職意志を促進する要因であることが示唆されてきた(尾形,2012など)。これらの知見,ならびに先述の転職に関する社会的背景を踏まえると,転職者も同様に,期待と現実とのギャップを感じる場合が多く,転職時にもRSに直面している可能性が予測される。
 新規参入者のRSからの回復・適応の過程については,組織社会化(Wanous, 1992)の研究文脈の中で検討されてきた。その中では,組織に参入する以前に持っていた価値や態度などを捨て,新しい役割を習得し,組織に適応するという段階を経ることが重要であるとされる(Shein,1978)。これらに基づけば,転職によって新しい組織に参入した際にも,一定の柔軟さをもって自身を捉えつつ,その態度や役割を積極的に変容させていくことが重要と考えられる。
 こうした組織社会化の初期段階に関する知見を踏まえると,そのプロセスにおいては自己概念の明確性(Self concept clarity: SCC)が重要な役割を果たす要因として想定される。SCCはCampbell(1990)およびCampbell et al.(1996)によって提唱された概念であり,個人の自己概念の内容や自己についての信念が曖昧でなく,確信を持って定義され,通時的に一貫かつ安定している程度を表す。
 これらの知見を踏まえると,転職に伴ってRSが発生している際に,高いSCCを保持していることは,組織社会化において必要と考えられる自己認知の柔軟さや変容可能性を阻害し,むしろ転職後の職務への継続意向を阻害してしまう可能性も考えられる。本研究ではこの可能性に着目し,転職時のRSがもたらす影響に対する仕事上のSCCの調整効果を検討する。
 方 法
調査対象・手続き 2018年9月に,(株)マクロミルの登録モニターのうち,転職経験が1回かつ2社目に在職中の20-39歳の社会人412名(雇用形態は1社目・2社目ともに正社員または契約社員;男性221名,女性191名;平均31.70歳,SD=4.46)を対象にWeb上での調査を実施した。
質問紙の構成 (A)RS:Kodama(2017)より,RSの経験頻度10項目,RS時の心理的ショックの程度10項目(4件法)。(B)職業場面における自己概念の明確性:Campbell(1990)および予備調査(現職社会人65名への自由記述式調査)を通じて作成した,仕事上の自己概念を問うSD法形容詞対24項目を提示し,どの程度あてはまるか(7件法)を尋ね,それらの評定への確信度(5件法)を尋ねた。加えて,半年前の時点での仕事上の自己について,同じ24項目を用いてどの程度あてはまるかを尋ねた(7件法)。(C)職務への継続意向:Shimazu et al.(2008)のワーク・エンゲイジメント(WE)尺度9項目(6件法)。(D)個人属性:年齢,業職種など。
 結果と考察
 井上(2008)に基づき,仕事上のSCCに関して,反応の極端性,評定への確信度,通時的安定性について数値化した。そのうえでWEを基準変数,step 1で回答者の属性,step 2でRSに関する2変数,step 3で仕事上のSCCに関する3変数,step 4でRSの2変数と仕事上のSCCの3変数の交互作用項を説明変数として投入した階層的重回帰分析を行った(Table 1)。
 その結果,step 2 以後の回帰モデルの決定係数および決定係数の増分が有意であった。step 2ではRSの心理的ショックが有意な負の影響を,step 3 では通時的安定性が有意な負の影響,反応の極端性および評定への確信度が有意傾向で正の影響を及ぼしていた。さらに,step 4 ではRSの心理的ショックと反応の極端性との交互作用項が有意な負の影響を示していた。単純傾斜分析の結果,RSの心理的ショックは,反応の極端性が低い場合には有意な影響を及ぼさなかったが(β=.07, n.s.),反応の極端性が高い場合には有意な負の影響を及ぼしていた(β=-.26, p<.01)。また,RSの心理的ショックと評定への確信度との交互作用項が有意な負の影響を示したため,単純傾斜分析を行った結果,評定への確信度が低い場合には有意な影響を及ぼさなかったが(β=.11, n.s.),評定への確信度が高い場合には有意な負の影響を及ぼしていた(β=-.29, p<.01)。
 すなわち,転職後において仕事上のSCCの高さは,職場定着を阻害することが示された。転職者が新しい職場に適応する際には,「仕事上の自分」についてより柔軟に,かつ変容可能なものとして捉えていくことが重要であると推察される。

キーワード
リアリティ・ショック/組織社会化/自己概念の明確性


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