発表

2B-013

親アイデンティティを規定する要因に関する探索的検討(3)
親アイデンティティと夫婦の関係性評価、育児行動、育児ストレスとの関連

[責任発表者] 山下 倫実:1
[連名発表者・登壇者] 加藤 陽子:1, 石田 有理:1, 布施 晴美#:1
1:十文字学園女子大学

【目 的】 本研究の目的は,幼い子どもを持つ親が「親としてのアイデンティティ(以下,親ID)」を獲得していく過程を明らかにすることである。岡本(1996)によれば,個としてのIDと母親IDを両立している統合型が家庭生活に満足し,夫からよく理解・受容されていると認知し,家族に対して積極的に関与するという。ただし,出産後には家事や子どもの世話にかかる時間は増え,職業生活とのバランスを取ることは難しくなり,経済的な負担も重くなることから,親IDの獲得は容易ではない。これまで,母親IDに関しては,母親が夫婦関係に満足し,育児不安によるストレスが少ないと母親の効力感を感じやすいこと,父親による母親への支援が母親の効力感を高めると同時に,父親の子育て支援の少なさもまた母親の効力感を高めることが示されている(山下ら,2016)。一方,父親IDに関しては,育児ストレスのうち「母親の理解のなさ」及び「心身の疲労」が父親の親としての自信を低下させたり,自己優先的なIDを獲得させることが示されている(山下ら,2018)。以上より,夫-妻という関係性が親IDの基盤となる可能性が高い。
 そこで,本研究では,夫婦のペアデータを分析し,親IDに夫婦の関係性の評価,育児行動,育児ストレスがどのように関連しているのかを検討する。
【方 法】
<調査協力者>平成31年3月にクロスマーケティング社に依頼し,現在3歳未満の子どもが1名のみの核家族を対象に,WEB上でアンケート調査を実施。200組が調査に協力。平均年齢は男性34.83歳(SD=5.44),女性32.72歳(SD=4.90)。
<質問項目>1)夫婦関係満足度:諸井(1996)の6項目,4件法で測定(母親:α=.929,父親:α=.947)。2)夫婦の関係効力感:浅野(2009)の10項目,5件法で測定(母親:α=.955,父親:α=.952)。3)親ID:山口(2010)の親ID尺度,母親IDを参考に17項目を選定し,5件法で測定。4)父親自身の育児行動評価及び母親の父親の育児行動に対する評価:西尾(2013)の父親育児行動リストを基に,新たに対母親支援4項目を加えた計15項目について5件法で測定。信頼性は対子ども育児8項目(母親:α=.807,父親:α=.809),対母親支援7項目(母親:α=.855,父親:α=.859)であった。5)母親の育児ストレス:清水・関口(2010)の「育児ストレス尺度(CSS短縮版)」の16項目について5件法で測定。信頼性は心身の疲労(α=.872),育児不安(α=.818),父親支援のなさ(α=.841)であった。6)父親の育児ストレス:母親と同様の項目で測定。ただし,「父親支援のなさ」については回答できないため,「母親の理解のなさ」に関する4項目を新たに作成。信頼性は心身の疲労(α=.896),育児不安(α=.882),母親の理解のなさ(α=.788)であった。
【結果と考察】
1.親IDの因子分析
 まず,父親ID17項目について,因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した。固有値1.0以上の基準で4因子を抽出した。なお,ダブルローディングしていた3項目については除外した。第1因子は親としての不全感や自信のなさを示す因子であり,「親としての自信のなさ」因子とした(α=.868)。第2因子は親としての役割を受け入れていることを示す因子であり,「親役割の受容」因子とした(α=.734)。第3因子は親としての自信をみせる項目と個としての自分を優先させる項目で構成されており,「自己優先的な親役割」因子とした(r=.217,p<.01)。最後に,第4因子は「15.親としてかかわっている時が一番自分らしい」という1項目のみで構成されていた。この因子については,今後も引き続き検討が必要である。母親IDについても同様の分析を行った結果,3因子構造が認められ,父親IDの第1~3因子とほぼ同じ因子が得られた(自信のなさ:α=865,受容:α=723,自己優先:r=.247,p<.01)。
2.親IDと夫婦の関係性,育児行動,育児ストレスの相関分析(Table1)
 まず,父親IDについては,「父親としての自信のなさ」と母親としての自信のなさ,母親の育児不安の間に正の相関があった。また,「父親役割の受容」と母親役割の受容の間に正の相関があり,育児不安の間に負の相関があった。さらに,「自己優先的な父親役割」と自己優先的な母親役割の間に正の相関があった。一方,母親IDについては「母親としての自信のなさ」,「母親役割の受容」の結果は父親と同様であった。「自己優先的な母親役割」のみ,自己優先的な父親役割に加え,父親としての自信のなさや父親の育児不安との間にも正の相関があった。その他,育児行動については,母親の父親に対する評価と父親の自己評価の正の相関が強く,父親の育児行動については正確に評価されている可能性が示された。
 総じて,夫婦の間で補い合うような親IDが形成されるというより,類似した親IDが獲得される傾向にあった。また,育児ストレスについても育児不安で正の強い相関が認められ,夫婦間で育児に対する不安や親役割の不安定さが共有されてしまう可能性が示された。
(本研究はH30年度本学のPJ研究費の助成を受けて実施された)

キーワード
親アイデンティティ/ペアデータ


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