発表

2B-011

ネガティブ・ポジティブ状況における羞恥の文化差とその要因
-関係流動性の役割の検討-

[責任発表者] 前田 友吾:1
[連名発表者・登壇者] 結城 雅樹:1
1:北海道大学

目的 羞恥 (embarrassment) とは, 社会的場面において, 規範からの逸脱時や他者からの悪い評価を懸念したときに発生する自己意識的感情である。しかし, 羞恥は公衆の面前での失敗のようなネガティブな状況だけでなく, 誰かから褒められるようなポジティブな状況においても発生する (e.g, Lewis et al., 2010)。羞恥の文化差については,ネガティブ状況における恥 (Shame) では検討されてきたものの (e.g, Sznycer et al., 2012), ポジティブ状況での羞恥(以下「ポジティブ羞恥」)の比較研究は少数しかない (Lewis et al., 2010)。さらにポジティブ羞恥の文化差の原因を検証したものは筆者の知る限り存在しない。そこで,本研究は日本人と米国人のポジティブ羞恥の強さを比較し, そこで見いだされた文化差が, 社会生態学的要因の一つである関係流動性 (Yuki & Schug, 2012) の差で説明されるとの仮説を検証した。
 関係流動性とポジティブ羞恥 東アジアなどの低関係流動性社会においては,対人関係選択の自由度が低いため, 集団内で調和を保ち, 集団から排斥されないことが主要な適応課題である (Hashimoto & Yamagishi, 2015)。そのような社会では, 周囲に迷惑をかけたり能力の欠如が露呈した者だけでなく, 周囲から突出して望ましい属性や行動を示す者もまた,集団内に地位格差と競争を引き起こし,調和を乱す存在として他者からの否定的評価につながる可能性がある。よって, 低関係流動性社会においては,成功時や被称賛時にポジティブ羞恥が高まることで, 競争動機を抑制し,また競争の意図がないことをアピールでき, 周囲からの評価の回復につながるだろう。一方,北米などの高関係流動性社会においては,対人関係選択の自由度が高いため, 望ましい対人関係の獲得をめぐる競争は激しくなる。そこでは周囲の他者から望ましい存在だと評価されることが重要な適応課題であるため(Kito, Yuki & Thomson, 2017), ポジティブ羞恥によって競争的動機を抑制したり覆い隠したりする必要性が低いだろう。
 以上より, 本研究は以下の予測を立てる。第一に, ポジティブ羞恥は米国人よりも日本人の方が感じやすいだろう。第二に, その文化差は,個々人を取り巻く局所的な社会環境の関係流動性, および成功者に対して周囲の人々が肯定的もしくは否定的な評価を与えるという信念に媒介されるだろう。
方法 クラウドソーシングサイトLancers (日本) およびAmazon Mechanical Turk (米国) から日本人204名, 米国人226名が参加し, 質問紙に回答した。測定尺度: ①6点尺度である関係流動性尺度 (Yuki et al.,2007), ②6点尺度である成功に対する社会的賞罰信念尺度(成功罰信念と成功賞信念下位項目で構成),③ネガティブ状況(人前で失敗や欠点が露呈する)と,ポジティブ状況(人前での成功や優れている点が明らかになる)においてどの程度羞恥を感じるかを場面想定法により尋ねた7点尺度である状況依存羞恥尺度。
結果と考察 まず, ポジティブ羞恥に関しては,予測通り米国人よりも日本人の方が有意に強かった, 日: M = 3.76, 米: M = 3.05, t (426.84) = 5.24, p < .001。一方, ネガティブ羞恥に日米差はなかった, 日: M = 5.94, 米: M = 5.77, t (419.83)= 1.60, p = .11。関係流動性知覚は先行研究と一貫して, 米国人の方が日本人より有意に高かった, 日: M = 3.56, 米: M = 4.31, t (428)= -11.03, p < .001。成功罰信念は日本人の方が, 成功賞信念は米国人の方が高かった, 成功賞: 日: M = 3.81, 米: M = 4.58, t (424.50) = -9.29, p < .001 ; 成功罰: 日: M = 2.96, 米: M = 2.51, t (410.77) = 4.85, p < .001。次に,ポジティブ羞恥の日米差への関係流動性,成功罰信念,および成功賞信念の媒介効果を検討した。独立変数を国(日本= 0, 米国= 1), 従属変数をポジティブ羞恥, 媒介変数を関係流動性, 成功罰信念, および成功賞信念としてパス解析を行った(Figure 1)。その結果, 国から関係流動性, 成功罰信念の間接効果が有意となった(aeh)。国から関係流動性,成功賞信念の間接効果は有意ではなかった(adg)。
 以上から, 社会環境の関係流動性の高低により, ポジティブ状況における羞恥の適応価が異なる可能性が示唆された。つまり, 日本を始めとする関係流動性の低い社会では, 自らの優秀さが明らかになるような場面においても, 一方で周囲からの否定的な評価への懸念もまた高まるため,ポジティブ羞恥が高まると考えられる。
引用文献
Hashimoto, H & Yamagishi, T. (2015). AJSP, 18, 115-123. / Kito, M., Yuki, M., & Thomson, R. (2017).Pers. Relatsh, 24(1), 114-130. / Lewis, M., Takai-Kawakami, K., Kawakami, K., & Sullivan, M. W. (2010). Int. J. Behav. Dev, 34(1), 53-61. / Sznycer, D., Takemura, K., Delton, A. W., Sato, K., Robertson, T., Cosmides, L., & Tooby, J. (2012). Evol. Psychol, 10(2). / Yuki, M., & Schug, J. (2012).New directions in close relationships: Integrating across disciplines and theoretical approaches (pp. 137-152). / Yuki, M., Schug, J., Horikawa, H., Takemura, K., Sato, K., Yokota, K., & Kamaya, K. (2007). CERSS Working Paper 75.

キーワード
関係流動性/羞恥/ポジティブ状況


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