発表

2B-009

疑わしさと信頼の関係についての検討
―高齢者における信頼感と猜疑心がだまされやすさに及ぼす影響に着目して―

[責任発表者] 滝口 雄太:1
[連名発表者・登壇者] 桐生 正幸:1, 入山 茂:1, 蘇 雨青:1, 高橋 綾子:1
1:東洋大学

1. 問題と目的
 我が国における特殊詐欺認知・被害状況等を概観すると,平成30年は認知件数が減少したと報告されているが,依然として深刻な状況である(警察庁, 2018)。特に高齢者の被害は全体の78%を占めており,被害防止が急がれている。被害の遭いやすさに関して,高い信頼感に着目した研究があるが,不信と信頼が独立した関係であるという指摘(天貝, 1997)や他者の行動へのネガティブな予測としての疑わしさの重要性(滝口, 2017)を考慮すると,より多角的にだまされやすさへの影響を検討することができよう。そこで,本研究では信頼感以外に,他者への疑い深さとリスク志向性を用いて,高齢者のだまされやすさについて調べる。

2. 方法
2.1 対象者
 本調査には,インターネット調査会社(株式会社マクロミル)に登録している60歳以上のモニター824名が参加した。そのうち,不適切な回答者を除外した。その結果,821名(男性411名,女性410名,平均年齢66.91歳,SD=5.13)を最終的な分析対象者とした。
2.2 質問項目
 調査票には,猜疑心尺度,リスク回避志向性(楠見, 1992),対人関係の信頼尺度(天貝, 1997),JST版活動能力指標(古矢野他, 1986),簡易版認知機能測定,および疑わしさに関する経験(他者にだまされたことがあるか,など5項目)を尋ねる項目が含まれていた。

3. 結果
3.1 尺度構成
猜疑心尺度に関しては先行研究と同じ因子構造が確認され,一般的疑わしさ8項目の信頼性は.812,真実バイアス傾向7項目の信頼性は.708であった。そのため,それぞれの評定値の合計を求め,その値を分析の対象とした。なお,疑わしさと信頼は独立した次元であるという研究知見と合致する結果である。疑わしさと信頼の各下位尺度での回答値の平均点をもとに,回答者を中央値で分割し(疑わしさ21点,真実バイアス23点),4群に分けた。その結果,疑わしさ低・真実バイアス低群が164名,疑わしさ低・真実バイアス高群が340名,疑わしさ高・真実バイアス低群が194名,疑わしさ高・真実バイアス高群が126名となった。
 次に,リスク回避志向性および対人関係の信頼,活動能力指標について,疑わしさ(高・低)と真実バイアス(高・低)の参加者間2要因からなる分散分析を実施した。
 リスク回避志向性のうち,生命に関するリスク回避については,疑わしさの主効果(F(1, 817)=34.04, p< .01, η2 = .04)と真実バイアスの主効果(F(1, 817)=4.25, p< .05, η2 = .01),および疑わしさと真実バイアスの交互作用(F(1, 817)=5.54, p< .05, η2 = .01)が有意であった。下位検定の結果,疑わしさ低群において真実バイアスが高い方がリスク回避傾向が低く(F(1, 817)=5.94, p< .05, η2 = .01),真実バイアス高群において疑わしさが低い方がリスク回避傾向が低かった(F(1, 817)=8.21, p< .01, η2 = .01)。一般的な不安についても,疑わしさの主効果(F(1, 817)=13.14, p< .01, η2 = .02)と真実バイアスの主効果(F(1, 817)=16.07, p< .01, η2 = .02)が有意であったが,交互作用は有意ではなかった。疑わしさが高い方が一般的な不安感が高く,真実バイアスが低い方が一般的不安をあまり感じていなかった。
3.2 高齢者の持つ猜疑心
 高齢者が抱いている他者に対する疑い深さが低いかどうかを調べるために,大学生の持つ猜疑心を調べた滝口(未公刊)のデータとの比較を行った。その結果,猜疑心の中でも,疑わしさは高齢者のほうが低かったが(t (1099)=7.52, p< .01, d =0.67),真実バイアス傾向は大学生と高齢者の間で有意な差はみられなかった(t (1098)=0.31, p> .05, d =0.03)。
3.3 高齢者のだまされやすさについての検討
 実際に他者にだまされたという被害経験の有無および詐欺被害経験の有無について,ロジスティック回帰分析を実施した(Table1)。詐欺被害の反応に対して,他者を無条件に信じてしまう傾向が低まることが影響を及ぼす可能性が示された。また,詐欺ほど深刻でない被害について,過去の経験や疑わしさ,不安といった要因を高めることで被害に遭う可能性が低まることも明らかになった。

4. 考察
 本研究は,信頼感および猜疑心に焦点を当て,だまされやすさへの影響を検討した。一連の分析から信頼性と猜疑心の相違,大学生と高齢者の猜疑心の程度の相違もみられた。すなわち,高齢者は他者を疑う傾向が低くなっていた。さらに,疑わしさや真実バイアス傾向は「だまされる」被害を低めるような可能性があることが示された。

キーワード
高齢者/猜疑心/信頼感


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