発表

2B-008

清潔さと道徳判断
Schnall, Benton, & Harvey(2008)の追試

[責任発表者] 工藤 恵理子:1
1:東京女子大学

 近年,特に社会的認知研究において,研究結果の再現性に関する議論が活発に行われており,事前登録による直接的追試が実施されるようになってきている。本報告はこのような機運が高まる以前に実施した追試の報告である。追試の対象としたのは,Schnall, Benton, & Harvey (2008)のstudy2である。この実験では偶発的に生じた嫌悪感情が道徳判断を厳しくさせるという知見に基づき,その逆方向の影響が検討された。具体的には,自分の身体を清潔にする行為(手洗い)が道徳判断における厳しさを和らげることを示した。しかし,Social Psychology誌において事前登録をして実施された直接的追試では結果が再現されていない(Johnson et al.,2014)。
方法
実験参加者 女子大学大学生24名(平均年齢21.78歳)がボランタリーに参加した。
手続き 部分的にはSchnall et al.(2008)と異なる部分があるが,直接的な追試に近いものであった。
実験は隣接する2つの実験室を用いて個別に行われた。実験参加者は手を洗う実験条件と手を洗わない統制条件とにランダムに振り分けられた。
実験参加者はノートパソコンがおいてある実験室に案内され,嫌悪を喚起する映像を視聴した。映像刺激はSchnall et al.(2008)に倣い,Trainspottingの冒頭部分約3分間を用いた。参加者は映像を視聴し,この映像を以前に見たことがあるかどうか回答した後,隣室へ移動するよう求められた。隣室は靴を脱いで利用するプレイルームであった。手を洗う条件の実験参加者は入室する際,「この実験室はこどもが利用するため清潔に保つ必要があり,靴を脱ぎ,手を洗うことになっている」との説明を受けた。手洗いは備え付けのシンクで液体洗浄剤を用いて実施された。統制条件では,靴を脱ぐよう依頼したのみであった。Schanll et al.(2008)でも部屋を清潔に保つ必要があるとの説明により参加者に手洗いをさせており,若干の説明の違いはあったが,手洗い条件の参加者に道徳ジレンマ課題に回答する実験室が清潔である必要があるということを口頭で教示した点は共通していた。
 手洗いの後,実験参加者は道徳的ジレンマ課題6問に回答した。課題はSchnall et al.(2008)で使用されたものを翻訳して使用し,1(まったく悪くない)~9(とても悪い)の9件法で回答を求めた(Schnall et al.(2008)では7件法),それに加えて,そのジレンマ課題を事前に知っていたかを尋ねた。続いて映像を見た後の感情状態についての質問紙に回答を求めた(21項目, 9件法;Schnall et al.(2008)では,9項目, 21件法)。最後にデブリーフィングを行い,手洗い条件の参加者にはハンドクリームを塗ってもらい実験を終了した。
結果と考察
映像刺激を見たことがあると回答した参加者が1名いたが,分析にはこの参加者も含めている。
嫌悪感評定 嫌悪感の評定に対して,条件間で違いはなかった(F(1,22)=0.98, ns,ηp2=.04; 手洗いあり条件:M=7.08,SD=1.31 手洗いなし条件:M=7.58, SD=1.17)。
道徳判断 Schnall et al.(2008)に倣い6つの道徳ジレンマ課題の評定の平均値を算出し,条件間の違いを検討したところ,わずかに手洗いあり条件の方が判断が甘くなる傾向が認められた(F(1,22)=3.12,p=.091,ηp2=.12 手洗いあり条件:M=5.80,SD=1.11 手洗いなし条件:M=6.61, SD=1.17)。個々のジレンマ課題ごとに見ると,有意な差があったのは財布課題(経済的に苦しいときに,落とし主が裕福と推察される拾った財布から現金を抜いて持ち主に返却する)のみであった(F(1,22)=6.36,p<.05,ηp2=.22手洗いあり条件:M=6.92,SD=2.35 手洗いなし条件:M=8.67, SD=.49)。個々のジレンマ課題の評定は図1の通りであった。
本研究の結果は,Schnall et al.(2008)を完全に再現したとは言えないが,同じ方向の結果が得られたものと解釈できるだろう。しかし,実験参加者数が少ないことを踏まえ,慎重になる必要がある。また,手を洗う行為が実際に自分自身と清潔さとの連合を強め,その結果,道徳性判断に影響するというプロセスを直接検討していない。このプロセスの働きについては,より直接的な形での検討が必要である。
引用文献
Johnson et al.(2014) Social Psychology, 45, 209-215. /Schnall et al.(2008),Psychological Science,19,12-19 

本実験は著者の指導のもと実験演習の課題として実施された実験データを再分析したものである。

キーワード
身体化認知/清潔さ/道徳判断


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