発表

2A-016

潜在的ポジティブ・ネガティブ感情テスト(IPANAT)の構造
オンライン調査と実験室実験での比較

[責任発表者] 森 久美子:1
[連名発表者・登壇者] 広田 すみれ:2
1:関西学院大学, 2:東京都市大学

問題
 潜在感情測定法であるIPANAT(Quirin, et al., 2009)は,潜在指標でありながら紙とペンのみで測定可能という簡便さを特徴としている。この簡便さから,IPANATの測定環境は実験室や集合式質問紙調査からオンライン調査へと拡大しつつある。しかし,オンライン調査で実施されたIPANATのデータがこれまでの測定環境で得られたデータと異なるのかについての情報は,現状ではほとんど見られない。Quirin et al. (2018) では国際比較データの一部のサンプルをオンライン調査で収集し,それらのサンプルでは本来はポジティブ感情(PA)とネガティブ感情(NA)の直交2因子構造であるはずのIPANATで,下位尺度得点間に正の相関がみられたり,2因子構造がみられなかったりしたことを報告している。IPANATのオンライン実施例はその後も散見されるものの,尺度構造についての情報の報告なしに使用されているなど,測定環境の影響については十分な知見が蓄積されていない。本研究では,森・広田・大山・小野寺・越川・白井(2018)のオンライン調査によるIPANATデータを実験室で収集した追加データと比較することで,オンライン調査環境が直交2因子構造に影響している可能性について検討する。
方法
[参加者] 実験室実験(以下LAB)では大学生男女74名が実験に参加し,このうちIPANATの測定目的に気づいていた2名と教示を誤解していた1名を除く71名(女性50名, 平均20.7歳)を分析対象とした。オンライン調査(以下WEB)データは森・広田・大山・小野寺・越川・白井(2018)による16-80歳の男性1017名女性1143名の回答から,IPANATの測定目的に気づいていた可能性のある者とIPANATでの反応時間に平均値±3SD以上の項目がある者を除外した1337名を分析対象とした。
[IPANAT手続き] IPANAT日本語版(下田ら, 2014)を用いた。無意味綴6種をランダムに提示し,それがポジティブ感情形容詞(楽しい, 元気な, 幸せな)およびネガティブ感情形容詞(憂うつな, 無力な, 緊張した)の内容をどの程度表していると思うかを4件法で尋ねた。LABではノートPCを用いた個別実施とし,WEBではPCまたはスマートフォンでの回答とした。なお,全参加者はIPANAT実施前に本研究とは別の研究目的により静止画像を10秒間注視していたが,本発表では画像をプールした結果について報告し,提示画像の影響については扱わない。
結果
 各無意味綴に対する6 種類の感情形容詞の個人内平均値を感情語得点として算出した。まずは6種類の感情語得点についてQuirin et al. (2009)同様に直交を仮定した因子分析(最尤法バリマックス回転)を行ったところ,いずれの測定環境においてもPAとNAの2因子構造がみられた(分散説明率LAB86%, WEB87%)。感情語得点をPAとNAごとに単純加算平均したPA得点とNA得点のα係数はLABで.95(PA)と .87(NA),WEBで.94(PA)と.91(NA)であった。両得点相関は-.01(LAB)と.48(WEB)であり,Quirin et al. (2018)と同様,オンライン調査において得点間相関が高かった。
 2因子構造は安定してみられたものの,WEBにおいてのみ得点間相関が高いという結果が再現された。そこで測定環境による直交性の違いについて検討するため,LABとWEBでの多母集団同時確認的因子分析を行った。分析にはAmos ver. 25を用いた。等値制約をすべてのパスと因子間相関に置く(モデル1),パス係数のみに置く(モデル2),まったく置かない(モデル3)という3つのモデル比較を行ったところ,モデル2が採択された(Table 1)。推定された因子間相関はLABでは無相関(r=-.02)であったがWEBでは正の相関がみられた(r=.50, p<.001)。
考察
 本研究はオンライン調査環境がIPANATの直交2因子構造への脅威となる可能性について検討した。結果は,2因子構造は安定して認められるものの,オンライン調査環境がポジティブ感情とネガティブ感情を独立して測定することの妨げとなっている可能性を示唆するものであった。このような現象の再現性と生起メカニズムについて引き続き検討が必要である。
引用文献
○森・広田・大山・小野寺・越川・白井(2018). 歩きスマホ抑制のためのビジュアルコミュニケーション効果に関する研究(1)日心第82回大会 ○Quirin, M., et al. (2009). https://doi.org/10.1037/a0016063 ○Quirin, M., et al. (2018). http://dx.doi.org/10.1027/1015-5759/a000315 ○下田・大久保・小林・佐藤・北村 (2014). https://doi.org/10.4992/jjpsy.85.13212
謝辞
オンライン調査データ収集にあたり,大山和政(JR東日本研究開発センター安全研究所),小野寺順(JR東日本),越川正治(日本コンサルタンツ(株)),白井郁男((株)JR東日本運輸サービス)の各氏に多大なご協力を得ました。記して感謝します。

キーワード
IPANAT/実験室実験/オンライン調査


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