発表

2A-013

日本語版一般的陰謀論者信念尺度の尺度構造の検討

[責任発表者] 眞嶋 良全:1
[連名発表者・登壇者] 中村 紘子:2
1:北星学園大学, 2:愛知淑徳大学

 一般に陰謀論は,強大な権力を持った集団が悪意の下に書いた筋書き,すなわち陰謀によって,世界における重要な出来事が引き起こされたとする,根拠のない主張を指す。これまでの研究により,特定の陰謀論の信奉者は,別の陰謀論も信じやすいこと,また陰謀論信念は,その他の非実証的信念(例,超常信奉や疑似科学信奉)と同様に,内省的思考と負の関連を示すといったことが明らかになっている。これまでの陰謀論信奉の測定尺度の多くは,特定の,かつ現在知られている陰謀論(9/11テロ攻撃黙認説,等)を題材に用い,単一因子構造を想定している。陰謀論そのものは,歴史上のさまざまな局面で観察されるが,その内容は時代によって変化するとともに,同時代においても文化の影響を強く受けると推定される。そのため,ある時点で特定の陰謀論に年代差や文化差が観察されたとしても,それは必ずしも特定の年代・文化に属する構成員がその他と比べて,特に陰謀論に嵌まりやすいことを示しているとは限らない。この点について,Brotherton et al. (2013) は,具体的な内容に依存しない測定尺度として一般的陰謀論者信念尺度 (Generic Conspiracist Beliefs Scale; GCBS) を開発するとともに,陰謀論信念の単因子性について疑義を呈しており,GCBS では5因子が見いだされている。
 GCBS には,特定の具体的な陰謀論に依存しないため,時代や文化を通じた比較を可能にするという利点があるが,尺度の検討は,主として米・英国のサンプルからのデータに基づいているため,他の文化圏での検証が十分に行われているとは言えない。また,日本人を対象とした陰謀論信念の測定尺度は,筆者らの知る限りでは存在していないため,本研究では,GCBSの日本語版を開発し,その因子構造を確認することを目的とした。
方法 本研究は第一著者の所属機関の研究倫理審査委員会の承認を受けて行われた。
参加者 600名の参加者(女性:378名,平均年齢 38.3歳,SD = 9.74)がクラウドソーシングを通じて募集された。参加者は,調査協力の謝礼として200円を受け取った。
材料 15項目からなる一般的陰謀論者信念尺度,陰謀論信念尺度 (15項目,BCTI, Swami et al., 2017),単一項目陰謀論尺度 (1項目,OICM, Lantian et al., 2016) を,それぞれ日本語訳したものを使用した。なお,尺度の翻訳にあたって,著者2名の合議により訳文を作成した。その後,専門の英語校閲業者にバックトランスレーションと,逆翻訳版と原版との間の意味の齟齬について検討を依頼した。逆翻訳版は原版との間で,言語構造に起因する微妙な表現方法の違いはあるものの意味の違いはないことが確認された。逆翻訳版に合わせて,日本語版の方で多少の表現の修正が行われた。
結果 600名の参加者を,ランダムに半分ずつ,尺度の因子構造を検討するための探索的因子分析 (EFA) 用のデータセット,EFA の結果抽出された因子構造と,先行研究で示された因子構造との間で,モデルの適合を比較検討するための確証的因子分析 (CFA) 用のデータセットに割り当てられた。
 因子抽出に最尤法,回転法としてオブリミン回転を用いたEFA の結果,GCBSでは一般的陰謀論 (GC, α = .87) と地球外生命体陰謀論 (ETC, α = .83) から成る2因子構造が抽出された (Table 1 に回転後の因子負荷量を示す)。つづいて,この2因子構造に加え,先行研究で検討された1因子モデル,項目数を10に減らした2因子モデル,原著の5因子モデルの4つのモデルを,確証的因子分析によって比較した。その結果,最も高い適合度指標を示したのは原著と同様の5因子モデルであった。しかし,このモデルは相関行列が非正定値となり,その原因は地球外生命体陰謀論以外の4つの因子間の強い正の相関に起因するものと判断されたため,次に高い適合度指標を示したEFA由来の2因子モデルを最終的なモデルとして採用した (Table 1)。このモデルの適合度は,χ2(80) = 238.8, CFI = .91, TLI = .89, RMSEA = .07, SRMR = .06 であり,概ね容認できる水準にあった。
 また,GCBSと,具体的な陰謀論信念を測定するBCTIとの間には強い正の相関が見られ (r = .44 〜 .73),OICMとの間でも中程度の相関が認められた (r = .18 〜 .38)。この結果から,GCBSは十分な水準の収束的妥当性を有していることが併せて確認された。
考察 本研究の結果,一般的陰謀論者信念尺度日本語版は2因子構造を持ち,項目間の内的一貫性は高く,かつ一定の収束的妥当性を有していることが確認された。しかしながら,原著版で確認された5因子モデルは本研究では確認されなかった。これが,陰謀論信念の構造についての文化差を反映した結果であるかについては今後の検討が必要である。

キーワード
陰謀論/一般的陰謀論者信念/因子分析


詳細検索