発表

2A-010

腐女子はフェミニストなのか?

[責任発表者] 山岡 重行:1
1:聖徳大学

 【目的】 社会学では腐女子は「BL趣味を持つ者」ではなく,「男性中心社会に異議申し立てするフェミニスト」とされている。北田(2017)は腐女子と男性オタクのジェンダー意識について次のように主張している。
 「腐女子こそがもっとも現行社会における男女の差異,差別,家父長的な性別役割分担,セクシュアリティ意識に敏感なのであり,その対極にあるのがデータベース消費を生きる男性オタクである。(中略)『オタク男』と『腐女子』のあいだには,非オタク層における隔絶よりもはるかに深いジェンダー意識の深淵が立ちはだかっている。(「社会にとって趣味とは何か」p.286)」
 北田は,腐女子=フェミニスト説を強弁するためにジェンダー意識の平均値を標準得点に変換,男性オタクが正,女性オタクが負の値になることを図示し,対極のジェンダー意識を持つと主張しているが,この2群間に有意差はないし,各群の人数,平均値,SD,の記述さえない。誤差でしかない結果を差があるように見せかけた偽装である。
 山岡(2017)は,腐女子群と男性オタク群の「男性は女性よりも優れている」という男性優位のジェンダー・ステレオタイプに有意差がないことを報告し,腐女子=フェミニスト説を否定している。本研究の目的は,その後の調査データを追加し,ジェンダー意識尺度を再分析するとともに,「腐女子=フェミニスト説」を再検討すること,および大学生世代のジェンダー意識を明らかにすることである。
【方法】 調査対象者 首都圏私立大学2校の18歳から62歳の男女大学生1006名(女性736名,男性264名,未記入6名)。平均年齢19.99歳(SD=3.545)。
使用した質問紙 ジェンダー意識尺度(山岡,2017),オタク度尺度・腐女子度尺度(山岡,2016)。
 手続 通常の授業時間の一部を利用して質問紙調査を行った。調査は2015年と2017年,2018年に実施した。
 【結果】 ジェンダー意識尺度に主因子法プロマックス回転の因子分析を行った。固有値と結果の解釈しやすさから3因子モデルを採用した。第1因子は「一家の生計を支えられないような経済力のない男性は,男として失格である」「たくましい体つきは,男の魅力として重要である」などの9項目に負荷量が高かった。これらはタフな男性が女性をリードするべきであり,女性はタフな男性を支えるべきだという男女の関係性のステレオタイプの項目と解釈できる。この9項目の平均値を関係性得点(α=.808)とした。第2因子は「女性は男性よりも視野が狭い」「男性は女性よりも人を使うのが上手である」などの7項目に負荷量が高く,男性優位のステレオタイプの項目と解釈できる。この7項目の平均値を男性優位観得点(α=.752)とした。第3因子は「女性は男性よりも繊細で感受性が豊かである」「男性が女性よりも攻撃的だ」などの5項目に負荷量が高く,女性は繊細で男性は乱暴というステレオタイプの項目と解釈できる。この5項目の平均値を繊細乱暴得点(α=.778)とした。
回答に不備のあった54名のデータを除外し,山岡(2016)の基準に従い,オタク度尺度と腐女子度尺度の得点から調査対象者を腐女子群,オタク群,一般群,耽美群に分けた。耽美群12名と腐女子群の男性6名は比較対象とするには少数すぎるため,後の分析から除外した。腐女子群,女性オタク群,女性一般群,男性オタク群,男性一般群の5群のジェンダー意識尺度の3つ下位尺度得点を1要因分散分析で比較した。関係性得点(F=10.444,df=4/915,p<.001)と繊細乱暴得点(F=4.037,df=4/919,p<.01)で有意な主効果が認められた。Bonferroni法多重比較から女性一般群と男性一般群および男性オタク群は腐女子群と女性オタク群よりも関係性得点が高く,男性オタク群は腐女子群よりも繊細乱暴得点が高いと言える。男性優位観得点(F=1.094,df=4/922,ns)では有意な主効果は認められなかった。
 【考察】 社会学者の主張のように腐女子がフェミニストであれば,腐女子群の男性優位観得点が他の群よりも有意に低くなるはずである。そのような有意差が認められないことから「腐女子=フェミニスト説」は直接的に否定できる。山岡(2017)よりもデータ数を倍にしても同様の結果が得られたことから,結果の再現性は高いと判断できる。
 関係性得点から,女性一般群・男性一般群・男性オタク群と腐女子群・女性オタク群に有意差が認められたが,個々の項目から女性一般群と男性の間の強調点の違いが見える。男性は「人生の困難に挑戦し闘わない男性に価値はないと思う」「男は弱音を吐くべきではない」など「男はタフであるべき」という男性ステレオタイプが強く,女性一般群は「人前では妻は夫を立てるべきだと思う」「セックスにおいて男性が女性をリードするのは当然だ」など「男性が女性をリードし女性は男性を支えるべき」という関係性ステレオタイプが強いのである。
 繊細乱暴得点から,男性オタク群は「女性は繊細で男性は乱暴」というステレオタイプが腐女子群よりも強いことがわかる。これは男性主人公の戦いを描く少年マンガが,男性オタクのジェンダー意識に影響し,男性同士の繊細な恋愛感情の動きを描写するBLが,腐女子のジェンダー意識に影響していると解釈できる。
 全体的に現代の大学生はそれほど強いジェンダー・ステレオタイプは持っておらず,その中でも男性優位の性差別を肯定するステレオタイプは特に弱い。有意差が認められた従属変数でも,社会学者が主張するような肯定と否定で対極のジェンダー意識を持つことを示すものではない。どちらがより否定的かという相対的な違いでしかない。「腐女子=フェミニスト説」はイデオロギーに溺れて現実を見ることができない社会学者の妄想でしかないのである。

キーワード
腐女子/フェミニズム/ジェンダー・ステレオタイプ


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