発表

1D-020

言語的教示による日本人の中国文化適応の促進
-大連市(中国)の在留邦人を対象とした異文化適応セミナーの効果-

[責任発表者] 毛 新華:1
[連名発表者・登壇者] 清水 寛之:1
1:神戸学院大学

 問題
 中国の経済発展に伴い,日本と中国の間で経済的交流,人的交流がますます活発になってきている。約13万人の日本人が,留学や駐在などの目的で中国に長期在留している(外務省, 2018)。長期滞在する,いわゆる在留邦人にとって,それぞれの滞在目的を達成するには,中国人との円滑な対人関係の形成が必要不可欠である。しかし,以前から,中国にある日系企業の職場において,日本人スタッフと中国人従業員との間で様々な対人トラブルが発生している(西田, 2007)。このような背景から,いかにして在留邦人の円滑な中国文化適応を促進できるかを検討することが重要である。
 これまでの文化適応に関する先行研究において,他文化への適応プロセスとして,Ward, et al(2001)によって提唱された,異文化環境下における適応次元であるABC(Affect, Behaviour, Congnitive) modelが挙げられる。このモデルが提唱している異文化適応介入の方法として,「言語的教示」,「認知の変容」,「行動の変容」,「認知行動的変容」という4つのアプローチが挙げられる。このうち,文化間の移動者に,心理的教育,該当地域の地理・政治に関する知識,そして対人関係および生活に関する知識を提供する「言語的教示」は,介入の直接性,効率性,経済性,効果性において,他の三つのアプローチと比べて最も優れている(Bhawuk & Brislin, 2000)。そこで,本研究では,この「言語的教示」を用いて,中国在留邦人の中国文化適応をサポートし,その効果を検証する。
 方法
 参加者 本研究では,実験群の参加者は日本人12名(男性:6名,女性:6名,平均年齢36.5±15.07)であった。一方,統制群は日本人男性8名(平均年齢37.6±10.24)であった。中国での滞在年数については,実験群では1.9±2.72年(1年未満6名で,3年以内は3名,それ以上1名,未回答は2名)で,統制群では4.7±5.70年(1年未満4名で,3年以内は1名,それ以上は3名)であった。さらに,中国語のレベルについては,実験群では,入門レベルに3名,中級レベルに2名,上級レベルに5名,無回答に2名であった。一方,統制群では,入門レベルに3名,中級レベルに2名,上級レベルに2名,無回答に1名であった。
 手続きおよび実施内容 実験群については,中国大連にて,新たに中国で働き始める在留邦人を対象に,「日本人の中国文化適応に向けて」と題するセミナーを開催した。参加者の中国に対する知識を増やし,文化による人間関係の違いおよび円滑な対人関係の構築に関する方法などを伝えることをねらった。具体的に,参加者に異文化体験のシミュレーションに参加してもらい,異文化における衝突,葛藤を経験し,異文化コミュニケーションのあり方を再考してもらった。また,日中の対人関係における異同点,とりわけ,中国の面子文化をはじめとする中国特有な対人関係の特徴について講義を行った。セミナーの前後(以下,それぞれPreとPostと略す)に,シミュレーションと講義内容に照らし合わせて作成した尺度に回答してもらった。
 一方,統制群については,同じ中国大連にて,「駐在員たちの体験談」と題する座談会を開催した。日本人同士による中国での勤務経験の苦労話を話し合うことを目的とした。また,座談会の前後に,実験群に実施した尺度と同じものに回答してもらった。
 セミナー効果を検証するための測度 異文化コミュニケーション能力や中国文化に関連する対人関係の能力をベースに,セミナーに盛り込んだ内容に照らし合わせて,9項目のオリジナル尺度を作成した(Table 1)。9項目を対象とする因子分析(開始直前と終了直後)では,それぞれ一因子構造が確認された。また,尺度の信頼性を表すクロンバックのα係数は,開始直前と終了直後でそれぞれ.91と.96であった。
 結果と考察
 実験群と統制群による効果の違いを検証するのに先立ち,実験群と統制群の等質性を確認した。その上で,9項目およびその合計点のpostの得点を従属変数とし,群を独立変数とし,9項目および合計得点のPreの得点を共変量とする1要因2水準の共分散分析を行った。その結果,第1,第2,第5,第6項目および合計点において,Postで有意(ないし有意傾向)な差が認められ,いずれの指標も実験群が統制群よりも得点が高かった(順に,F(1, 17)=3.76, 4.34, 3.61, 6.10, 5.03, p < .10)。
 このような結果により,本研究で考案したセミナーの内容は,在中国の在留邦人の中国文化による行動様式に対する理解を促進していると考えられる。具体的に,人とのコミュニケーションや異文化コミュニケーション能力およびスキル,そして,中国文化における他者と対人関係を形成するのにコア的な概念である「面子」に対する理解が深められたと考えられる。中国文化に対する参加者の理解促進にとって本セミナーは有効であると考えられる。今回のセミナーによってもたらされた効果については,今後さらなる実証研究を実施し,本セミナーの有効な継続的開催を行なっていきたい。

キーワード
言語的教示/中国文化適応/日本人


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