発表

1D-017

自他に対する社会的影響の認識の差が招く社会の分断

[責任発表者] 稲増 一憲:1
1:関西学院大学

目的
 民主主義においては,異なる利害や意見を持つ者同士が議論を行い,社会にとってより良い結論を導くことが期待される。もしこの過程で,「人々が自身の意見は熟考に基づくが他者の意見はメディアや他者に流されている」と考えるならば,異なる意見を持つ者同士の対話は阻害され,社会の分断を招く危険性がある。しかし残念なことに,人間がこのような傾向を持つことは複数の研究分野において知られている。
 メディア・コミュニケーション研究においては,マスメディアの自分自身への影響力と比べて他者への影響力が大きいと認識する第三者効果 (Davison, 1983) が,頑健な現象として知られている(Perloff, 1999)。また,心理学においては,(マスメディアの影響に限らず)社会的影響の認識において,自身への影響力よりも他者への影響力が大きいと認識する傾向を持つことが明らかにされている (e.g. Pronin, Berger, Molouki, 2007)。
 本研究は,さまざまな情報源について自身と他者への社会的影響の認識の差を測定することで,第三者効果が他の社会的影響の認識の差の1例に過ぎないのか,それとも対象がマスメディアであるがゆえの特殊性が存在するのかを検証する。その上で,政治学において研究されてきたイデオロギー(の極度),および政党支持の幅(三宅, 1985)という変数を取り上げ,これらの認識の差が,社会の分断を招き得るのかを検証する。

方法
参加者 Qualtricsを利用して調査票を作成し,クラウドソーシングサービスlancersにて日本国の選挙権を持つ18歳から69歳までの人を対象に回答を募集したところ,1034名から回答を得た。回答者の平均年齢は39.50歳( SD =9.77),性別は男性486名,女性545名,無回答3名であった。
影響力の差 「あなた自身/一般的な日本人の政治に対する意見は,以下のものから程度影響を受けていると思いますか。」というリード文に続き,家族・学校教育・周囲の人との会話・マスコミによる報道・インターネット上の情報の6つについて「1=全く影響を受けていない」から「7=非常に影響を受けている」までの7件法で回答を求めた。それぞれ,自身への影響力から一般的な日本人への影響力を減じたものを影響力の差の認識の指標とした。
イデオロギー極度 「0=左寄り」から「10=右寄り」までの11段階でイデオロギーの自己認識を測定した上で,5を境に折り返すことで,0から6点までのイデオロギー極度の指標を作成した。
拒否政党「あなたが絶対に支持したくない政党はありますか。あてはまるものをすべて選んでください。」というリード文に続いて,国会に議席を持つ自由民主党・立憲民主党・国民民主党・公明党・日本共産党・日本維新の会・自由党・希望の党・社会民主党について,複数回答で拒否政党の選択を求めた。本研究においては,拒否政党が多いほど政党支持の幅が狭く,異なる意見を受容し難いとみなす。

結果と考察 
 測定対象となった6つのすべてにおいて,他者への影響力の認識が自身への影響力の認識を上回っていたが,とくにマスメディアの影響力の差は,他の5つと比べて大きく認識されていた(図1)。一元配置分散分析を行った上で,Holm法による多重比較を行ったところ,調整p値はすべてp<.001であり,マスコミとの差の効果量dは家族(d =.450),学校教育(d =.309),会話(d =.365),インターネット(d =.291)であった。
 また,これらの自他の影響力の差とイデオロギーの極度・拒否政党数との相関行列を示したものが表1である。マスメディアについての影響力の差とイデオロギーの極度・拒否政党数との相関は,他の対象と比べて大きい。なお,この2変数それぞれについて,マスメディアの場合と他の対象の場合の相関係数の差を検定すると,すべて5%水準で有意であった。
 このように,自己と他者への社会的影響の差の認識はさまざまな対象について見られるものの,とくにマスメディアについての差が大きく認識されており,かつその認識は,とくに社会の分断を招き得ることを示唆する結果が得られた。

キーワード
社会的影響/マスメディア/第三者効果


詳細検索