発表

1D-013

帰還困難区域から日常生活を取り戻す営みと除去土壌をめぐる認識の地域差

[責任発表者] 大沼 進:1
[連名発表者・登壇者] 横山 実紀:1, 竹田 宜人#:2, 万福 裕造#:3
1:北海道大学, 2:横浜国立大学, 3:農研機構

目 的
 福島第一原子力発電所の事故により,福島県内12市町村が避難地域となり,その後,順次避難指示解除された地域が増えてきているが,まだ解除されていない地域もある。避難指示解除に伴う居住者の戻り具合も一様ではない。例えば,南相馬市小高区は2016年7月に避難指示解除され,2019年4月1日現在,登録人口の半数近いおよそ4000名が居住している。2017年3月末に一部を残し避難指示解除された飯舘村は,2年が経過して登録人口の約20%にあたる約1200名が村内に居住している。一方,大熊町は2019年4月10日に一部地区で解除されたのみで,町民の96%が居住していたところは依然として帰還困難区域のままである。
 本研究は,生活環境主義の立場から,長年の避難生活にもかかわらず故郷へ帰り生業を営もうとする人々に目を向ける。生活環境主義とは,当該地域で実際に生活する者の立場に立って,日常的な人と自然のつきあい方から歴史的・文化的環境の保全や地域づくりまでを幅広く対象に含むフィールドワークの視点で,そこに暮らす人々の生活に力点を置いた分析を提示する(鳥越, 1997)。生活環境主義は,自然保護か開発かという二項対立に対して,そのどちらでもなくその場所で自然と向き合って暮らしてきた生活者の視点を第一に重視しようとする。福島第一原子力発電事故を巡って,社会を分断したと言っていいほどの百家争鳴が繰り広げられてきた。本研究は,その争鳴に対してはどれでもなく,まずそこで暮らそうとする生活者を第一に考えようとする意味において生活環境主義的である。
 生活者,とくに農業者や,山に入り山菜やキノコ取りなどが生活の一部になっている人たちにとって,除染作業及びその後の除去土壌を巡る対応は一筋縄では語り尽くしがたい影響を及ぼした。除染には,農地では表土の削り取りや反転工など,森林では林縁部の落ち葉処理作業を含むためである。
 除去土壌は仮置場または除染現場で一時保管され,大熊町・双葉町に設置された中間貯蔵施設へ搬出される。国は,中間貯蔵開始後30年以内に,福島県外で最終処分を完了するとしている。また,最終処分量減量化のため,低線量のものは堤防や道路などの基礎に再利用することを検討しており (環境省, 2016) ,その理解促進が課題となっている。
 本研究では,除去土壌再生利用を頭の片隅に入れつつも,その前に生活者の視点・立場の窺知に努めることを目的として,面接調査を実施した。

方 法
 現地視察,及び,個人または集団面接を用いた。面接は完全な非構造化で,テーマや論点などはあらかじめ用意せず,話者に自由に話題を展開していただいた。聞き手(調査者)は,不明な点や疑問点などがあるときには質問を挟んだが,基本的には,相づちと相手の発言内容の繰り返し(確認の意味も込めた)と,自然な会話の流れに努め,必ずしも除去土壌のことはあえて無理には話題には出さなかった。生活者の文脈から当該の話題が出てこなければ,それも一つの意味のある手がかりとなるためである。
 実施時期は,2017年6月,2018年11月及び2019年3月の3回で,対象者は,南相馬市小高区,飯舘村,大熊町に帰還しているもしくは帰還を切望している方々計10名であった。

結 果 と 考 察
 面接に応じてくださった方々は,農地が荒れていくのを黙ってみていられない,積極的に売れる商品作物を育てたいなどと農業に情熱を傾けている方々,静かに養蚕・絹織物を手がけたいという方,まちをもっと盛り上げていきたいなど,意見や立場は様々だが,皆,そこで生業を営み生活していくことについて芯の強い思いが伝わってきた。中には「被災地とみられるのがイヤ。かわいそうな人と思われて自分たちが下に見られる気がする。」と語る方もいた。
 除染に対しては「長年かけて培ってきたいい土を根こそぎ持っていかれた」,「もう田んぼはつくれないと諦めている人もいるようだ」と述べる人もいたが,全体的には話題に上りにくいようだった。除染からの時間が経過していることも関係しているかもしれない。仮置き場については,「田んぼの一部がまだ仮置き場になっており,排水路がふさがり復興できないので早くどけてほしい。だが,土地所有者によってはそう願っていない人もいる」といった声もあり,複雑な事情もありそうだった。また,「(再生資材の土壌を)東京オリンピックへ(建設用途として)持っていけばいいのに」という声もしばしば聞かれた。
 一方,大熊町では,中間貯蔵施設となっている場所には梨園や田んぼがあったなど,その土地の過去の思い出が語られた。その行間から,帰還とコミュニティ再興への嘱望を諦めない前向きな,しかし複雑な心境が推察された。
 本研究は生活者視点の窺知に向けた小さな一歩に過ぎず,今後さらに多様な人々からの語りを集めていく必要がある。

謝 辞
本研究は,日本心理学会2018年度「災害からの復興のための実践活動及び研究」助成を受けた。

引 用 文 献
環境省 (2016) 再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方.
鳥越皓之 (1997) 環境社会学の理論と実践―生活環境主義の立場から. 有斐閣
福島復興情報ポータルサイトhttps://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/(2019年5月8日確認)

キーワード
生活環境主義/除去土壌/福島


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