発表

1D-010

大学生における音楽関連行動と心理的健康の関連(1)
―音楽経験との関連―

[責任発表者] 伊藤 栞:1
[連名発表者・登壇者] 小松 周平#:1, 齋田 百恵佳#:1, 小林 彩子:1, 橋本 剛:1
1:静岡大学

 音楽聴取がコーピングや快刺激としてネガティブ感情を和らげ,ポジティブ感情や心理的健康を促進することは多くの研究で指摘されている (Hsu et al., 2015; 松本, 2002; Ziv et al., 2011) 。だが,音楽はひとりで楽しむのみならず,他者と共有して楽しむこともある。その場合は,音楽そのものよりも,そこに伴う対人関係や対人的相互作用がソーシャル・サポートとして心理的健康を促進する効果も想定されよう (Boer et al., 2011; Loersch & Arbuckle, 2013; Pearce et al., 2015) 。そして,単独と共有,両方の音楽関連行動を包括して心理的健康との関連を検討した試みは少ない。そこで本研究では,音楽に関連する種々の行動を音楽関連行動と総称して,単独/共有双方の音楽関連行動と心理的健康の関連を検討する。
 ただし,音楽関連行動の頻度やその効果は,音楽への志向性などに影響されることも考えられる。そこで本研究では,過去の自発的な音楽経験が音楽への志向性を反映していると想定し,音楽関連行動と心理的健康の関連を検討する前提として,まずは音楽経験と音楽関連行動および心理的健康との関連を検討する。
方法
 2018年12月,質問紙調査により大学生173名(男性90名,女性83名,平均年齢19.4歳)の有効回答を得た。分析では以下の尺度を使用した。
 音楽経験:中学以降の学校内での音楽活動(部活動等)と,学校外での音楽活動(習い事等)の経験について尋ねた。学内外あわせた経験有群77名 (男性25名,女性52名),経験無群95名 (女性31名,男性64名)であった。
 音楽関連行動:単独/共有の音楽関連行動24項目を合議により新規作成し,各項目の実行頻度を6件法で尋ねた。探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)では4因子解と解釈されたが,研究目的を踏まえて,2因子に基づく2下位尺度を構成した。ひとつは,音楽に関する身近な人との会話や共有経験に関する音楽直接共有(「身近な人と一緒に音楽番組(テレビ・ラジオ等)を視聴する」など7項目)であり,もうひとつは,単独での音楽聴取や音楽情報接触に関する音楽単独接触(「楽曲を購入(ダウンロード等を含む)またはCD等を借りて一人で聴く」など3項目)である。
 心理的健康:諸井 (1991) による改訂UCLA孤独感尺度日本語版,伊藤他 (2003) による主観的幸福感尺度を使用した。
結果
 音楽経験による音楽関連行動の差異について,音楽経験と性別を参加者間要因,行動の種類(音楽直接共有と音楽単独接触)を参加者内要因とした3要因混合分散分析で検討した。その結果 (Figure 1) ,性別の主効果 (F(1, 168) = 12.49, p= .001, 偏η2=.069:男性 M= 2.94 < 女性 M= 3.54) ,経験の主効果 (F(1, 168) = 13.36, p< .001, 偏η2= .074:経験無群 M= 2.93 < 有群 M= 3.55) ,行動の主効果 (F(1, 168) = 27.96,p< .001, 偏η2= .143:直接共有 M= 2.97 < 単独接触 M= 3.50) がいずれも有意であった。次に交互作用として,行動と性別の2要因交互作用 (F(1, 168) = 14.216, p< .001, 偏η2= .078) が有意であり,単純主効果検定 (Sidak) の結果,男性の直接共有 (M= 2.49) のみ,男性の単独接触 (M= 3.39) や女性の直接共有 (M= 3.46) よりも有意に低かった。さらに3要因交互作用(F(1, 168) = 4.87, p= .029, 偏η2= .028) も有意であり,音楽経験有群の単独接触以外はいずれも男性より女性の方が高かった。また,男性の単独接触のみ,経験有群が無群より高かった。すなわち,女性は音楽経験の有無を問わず,直接共有も単独接触もある程度行っている一方で,男性は音楽経験の有無によって単独接触の程度が大きく異なること,ただし直接共有は音楽経験を問わず少ないことが示された。
 ちなみに,音楽経験による心理的健康の差異について検討するために,音楽経験と性別を独立変数,心理的健康指標(孤独感,主観的幸福感)を従属変数とした2要因分散分析を実施したが,孤独感と主観的幸福感のどちらに対しても,音楽経験による有意な効果は示されなかった。
考察
 音楽経験は,現在の心理的健康と関連しなかったが,特に男性における現在の音楽単独接触と少なからず関連していた。一方,全般的に女性は音楽経験の有無を問わず,直接共有にも単独接触にもある程度の頻度で従事していたが,男性は全般的に直接共有が音楽経験の有無を問わず相対的に少なかった。
 この結果は,音楽関連行動においても女性は男性より他者との共行動に従事しやすいのに対して,男性は女性よりも共行動に消極的であり,ただし音楽への志向性が高い場合は音楽単独接触という形で音楽を利用しやすいことを示唆している。これらのパターンは,音楽利用傾向の性差として,女性はサポートの一環として,一方で男性は自力でのコーピングの一環として,それぞれ利用する傾向があるとも解釈できるかもしれない。

キーワード
音楽/音楽関連行動/心理的適応


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