発表

1D-007

意味を見出した者/見出していない者の「言葉」

[責任発表者] 上條 菜美子:1
1:東京成徳大学

問題と目的 死別や重大な病の罹患などのストレスフルな体験に対し,その出来事が起きた意味を探索し,自分なりの理解や解釈を与えることを「意味づけ(meaning making)」と呼ぶ(Park, 2010)。これまでは,反すうや他者からの支援など,意味を生成するための要因を明らかにする研究が多かった(Joseph & Williams, 2005; Kamijo & Yukawa, 2018)。一方,ストレスフルな体験に必ずしも意味を見出す必要はないことや,意味を見出せないままの人がいることも指摘されている(Bonanno, 2013; Kernan & Lepore, 2009)。しかしながら,意味を見出せない者,あるいは意味は必要ないと考える者の特徴を詳細に追究した研究はほとんどない。そこで本研究では,過去のストレスフルな体験に対して生成された意味および意味生成しない(できない)理由を収集する。意味生成者および意味未生成者が使用する言葉の特徴を整理し,意味づけの特徴および意味生成に至るまでの過程について考察する。
方法 調査対象者:インターネット調査会社の株式会社マクロミルが保有するモニターを対象にウェブ調査を実施した。調査対象者は,20代から60代の男女1650名(平均年齢44.37 ± 13.94歳)であった。なお,調査時期は2016年2月であった。
質問項目内容:本研究では,現在から1年以上前,かつ,5年以内に起こったストレスフルな体験を調査対象とし想起を求めた。想起体験について,調査時点で意味生成をしているかどうかを測定するため,「現在,その体験について自分なりに理解・解釈したり,その体験から何かしらの意味を見出したりしていますか?」と尋ね,1(必要ないからしていない) ,2(全くできていない),3(あまりできていない),4(どちらともいえない),5(少ししている),6(非常にしている)の6件法で尋ねた。加えて,5または6に回答した者には,生成した意味の内容について具体的に記述すること,1から4に回答した者には,見出す必要がない,または見出すことができないと回答した理由を記述するよう求めた。
結果 意味づけに関する回答で使用された言葉の特徴:調査対象者を,意味生成を「非常にしている/少ししている」と回答した生成群(n = 653),意味生成をしているかどうか「どちらともいえない」探索群(n = 309),意味生成が「できていない」,「あまりできていない」未生成群(n = 446),意味生成は「必要ない」必要なし群(n = 228)の,生成した意味の内容,あるいは意味を見出さない理由について,どのような言葉を使用しやすいのかをKHcoder(樋口, 2014)により算出した。第一に,生成群では,【自分】,【人生】,【人間】,【経験】など,人生や人,出来事を,具体的にではなく抽象的に表現する語が使用されやすいことが示された。第二に,探索群では,【意味】,【答え】,【見出す】,【わからない】などが抽出され,その体験に何かしらの答えを見出しつつも,未解決な疑問があることが読み取れた。第三に,未生成群では,【できない】,【未だに】,【思い出す】が抽出された。ここから,未だにその体験を思い出してしまう状態にあることが,意味生成できていないと判断する一つの基準である可能性が示された。
対応分析による意味づけ過程の検討:意味生成を「必要ない」と回答した者(n = 228),意味生成を「できていない」と回答した者(n = 139),「あまりできていない」と回答した者(n = 307),「どちらともいえない」と回答した者(n = 309)を各群として扱い,使用する語について対応分析およびクラスタ分析(Ward法)を行い,意味生成をしていない状態から意味生成へ向かう過程について検討した。その結果,意味生成しない群は,【会社】や【上司】,【環境】など,その体験について考えるときの視点が自分ではなく自分を取り巻く外的なものに向く語が多い傾向にあった。また,意味生成(あまり)できていない群は,【嫌】,【未だに】,【問題】,【環境】,【思い出す】など,どちらの群も,その体験に対して【嫌】な印象を持ち,【未だに】【思い出す】体験として,また,【忘れる】ことが【できない】体験として,脅威が維持されていることを示す語が多くみられた。一方で,どちらともいえない群では,【わかる】,【理解】,【見出す】など,自分の視点からその体験を捉えようとする語が多かった。
考察 意味を必要としない者や見出せない者は,【上司】や【相手】,【問題】,【環境】など,回答時の本人の注意が,自分を取り巻く環境や他者など,外側に向いていることが読み取れる。ここから,自分自身の問題というよりも,自分が置かれた環境や他者に問題があると考え,周囲の変化や直接的な問題解決を求めている状態では意味生成に至ることは難しいと考えられる。一方,意味を見出したかどうか判断がつかない者は,【解釈】,【理解】,【感じる】,【わかる】など,回答時の本人の注意が,自身の思考に,すなわち内側に向いているように読み取れる。ここから,相手や状況,環境の変化ではなく,その体験によって自分はどう変わったか,自分はどう考えるかなど,自分を軸にその体験を振り返るようになると意味生成に近づくことが推察される。このように,ストレスフルな体験について思考・表現する際に,視点を外側に向けているうちは,自分自身とその体験のつながりを認識できず,意味を見出しにくい状態にあると考えられる。
謝辞 本研究は筑波大学の湯川進太郎先生から熱心にご指導いただきました。深く感謝申し上げます。

キーワード
意味づけ/ストレスフルな体験/対応分析


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