発表

1D-006

コスプレ体験における対話的自己の生成プロセス
―レイヤーによる語り合いを用いた考察―

[責任発表者] 奥村 知里:1
1:立命館大学

問題と目的
 自己とは何か.これに対しHermans & Kempen(1993/2006)は対話的自己論を提唱している.対話的自己論では,自己の世界において,複数の自己と他者,モノはポジションに変換され,それぞれに授けられた声が他のポジションの語りに応答し繋がる,つまり対話が行われることで自己が生成されていくと考える.本研究では,コスプレ体験に焦点をあて,対話的自己の記述を試みる.なお,コスプレとは,自身が抱くキャラクターや作品への気持ちを『表現する意志』に基づき,漫画やアニメ・ゲームの登場人物,芸能人や実在する職業の衣装を身にまとい,変装・変身する身体表現(コミケット,1999)である.私とキャラクターとの関係に焦点をあてることで,よりダイナミックに自己の対話を記述できると考えられる.
 本研究は,コスプレを行うコスプレイヤー(以下レイヤーと記す)のコスプレ体験を通して,対話的自己の生成プロセスを記述することを目的とする.

方法
 筆者でありレイヤーである《私》と研究協力者(以下,協力者と記す)であるレイヤーとの一対一の語り合い法(大倉,2002)を実施した.協力者はレイヤー8名(男性2名,女性6名)であり,実施期間は2017年10月~11月である.
 このインタビューデータを,M-GTA(木下,1999)を参考に分析した.

結果と考察
 分析の結果,34の〔概念〕が生成され,9つの〈小カテゴリー〉と4つの【大カテゴリー】にまとめられた(Figure1).なお,協力者の語りは“斜体(協力者)”で記す.
 コスプレを通して,レイヤーは,【日常生活における私】,【レイヤーとしての私】,【キャラクターとしての私】,【私がコスプレをするキャラクター】という4つのポジションを移行し,対話を重ねる.
 レイヤーは,【私がコスプレするキャラクター】に〈なろう〉と,〈コスプレに踏み出〉し,〈遊〉ぶ.また,コスプレを通して〈他者と繋がる〉.その背景には,〈日常生活を維持する〉ために〈コスプレに賭ける〉切実さもある.また,コスプレを通して,〈他者〉や〈私を見る〉ようになる.このようなプロセスの背景には常に,【私がコスプレするキャラクター】等,他者としての私との〈比較〉があると考えられる.
 近年,キャラクターは特定の物語の次元を離れても受け入れられる存在となっている.コスプレも,キャラクターのこのような特性に支えられて可能となっている.〈キャラクターになろうと〉し,〈遊ぶ〉ためには,自己の内にある【キャラクター】がどんな者なのか,そうなりたい,そうなるための私とはどんな者なのかという対話が繰り返されている.
 “(自分は)あんな暴走して人食べたりしいひんけど,あの暴走状態のAくん(キャラクター)がめっちゃかっこいいって思ってる,自分から遠いから逆に憧れるんかな(D)”.ここでは,【日常生活における私】から【私がコスプレするキャラクター】,【レイヤーとしての私】へと声が授けられている.コスプレにおいてレイヤーは実際に場やいでたちの変化により自分自身がポジションを移行する.
 レイヤーはコスプレが終わると日常生活に戻るが,“キャラで体験した感じと,こっちの世界で体験してることをたぶん,無意識のうちに比較し(B)”対話的な自己が生成され,その体験の意味が見いだされていくと考えられる.

文献
コミケット (1999) . コスプレって何?. http://www.comiket.co.jp/info-p/WhatIsCosPlay.html (2017年6月20日取得). 
Hermans, Hubert. J. M. & Kempen, Harry J. G. (1993). The dialogical self : meaning as movement. San Diego: Academic Press. 溝上慎一・水間玲子・森岡正芳 (訳) (2006). 対話的自己――デカルト/ジェームズ/ミードを超えて―― 新曜社.
木下康仁(1999).グラウンデッド・セオリー・アプローチ―質的実証研究の再生 弘文堂
大倉得史 (2002). ある対照的な2人の青年の独特なありようについて 質的心理学研究, 1, 88-106

キーワード
対話的自己/キャラクター/コスプレ


詳細検索