発表

1C-020

なぜ生活保護における不正受給の割合を高く見積もるのか?:内在的公正世界信念に着目した検討

[責任発表者] 中越 みずき:1
[連名発表者・登壇者] 稲増 一憲:1
1:関西学院大学

 本研究では,不正受給の見積もりに関して,内在的公正世界信念に着目した探索的検討を試みた。
 生活保護は人々の生活保障を担う制度である。しかし,受給者バッシングに代表されるように,人々の生活保護に対する態度は冷ややかである。生活保護批判に関わる争点のひとつに不正受給問題がある。近年の不正受給件数は総世帯約164万世帯のうち約4万件,割合にして約2.4%であり(厚生労働省, 2019),その内容は,稼働収入の無申告・過少申告が半数以上を占める(厚生労働省,2017)。これらの中には単純な申告のし忘れ等も含まれており (稲葉, 2013),そのすべてが悪質なものであるとは言い難い。
 山田(2015)の行った意識調査では,参加者は,被保護世帯に占める不正受給の割合を平均で約30%と実際よりも多く推定していた。過剰見積もりの背景には,国から直接的な扶助を受ける受給者に不公正感を抱き,不公正と感じる受給を「不正受給」とみなす認知が働いていると考えられる。このように,制度上は問題のない受給を「不正受給」とみなすことは,結果として生活保護制度自体の否定に繋がるだろう。
 生活保護への不公正感と関連しうる心的要因として,内在的公正世界信念(Belief in Immanent Justice: BIJ)が考えられる。BIJとは,ある出来事が生じた原因を過去の行いによるものと信じる信念である(Maes, J., & Schmitt, M, 1999; 村山, 2015)。この心的要因が不正受給の見積もりと関係しているならば,「不正受給」を不公正な受給とみなす認知バイアスが減ずる状況は2つ考えられる。第一に受給者が道徳的である場合,第二に不道徳的な受給者が「報いを受けた」場合である。このような状況では「不正受給」の見積もりは低減するだろう。先行研究では,困窮者の道徳的性質にまつわる情報は支援の是非を左右することが示されている(Iyengar, 1990)。以上から,受給者の道徳的側面に関する手がかりが「不正感」としての不正受給見積もりに影響し,BIJの強さはその影響を調整することが予測される。
方法
 実験計画 2(受給者の道徳特性:道徳的・非道徳的)×2(受給者の生死:生存・死亡)の参加者間計画。
 参加者 1074名がウェブ上で謝礼ありの実験に参加した。うち,satisfice行動のみられた者・操作に失敗していた者を除く964名(男性367名,女性587名,性別無回答10名,平均年齢38.61(SD=10.16)歳)を分析対象とした。
 刺激と条件 新聞記事を模した刺激を用いた。架空の受給者に焦点を当て,その暮らしぶりを描いた。道徳特性:道徳条件では質素倹約に努める受給者を,不道徳条件ではギャンブル等に浪費する受給者を記述した。生死:生存条件では現在も受給して生活していることを,死亡条件ではその後死亡したことを文章の最後に記述した。
 手続き 参加者は,村山(2015)のBIJ尺度4項目(6件法, α=.88)に回答したのち,各条件にランダムに割り当てられ,条件に該当する文章を呈示された。10秒間の強制呈示後,不正受給の割合の見積もり(0~100%)及び支援政策への賛意6項目(7件法, α=.81)に回答した。
結果
 不正受給の平均見積もりは,道徳・生存条件29.38%(SD=18.10),道徳・死亡条件31.83%(SD=20.65),不道徳・生存条件36.08%(SD=21.92),不道徳・死亡条件31.68%(SD=19.74)であり,山田(2015)と同様,参加者は概して不正受給の割合を多く見積もっていた。独立変数としてBIJ・道徳特性(道徳=0,不道徳=1)・生死(生存=0,死亡=1)および交互作用項を,従属変数として不正受給の見積もりを投入した重回帰分析を行った。分析の結果,主効果は道徳特性のみが有意であった(β= .078, p<.05)。道徳特性と生死の交互作用が有意であり(β= -.085, p<.01),不道徳条件において死亡した場合よりも生存している場合の方が見積もり値が高かった。また,3要因交互作用が有意であった(β= -.099, p<.01)。BIJが強い人において,不道徳・生存条件の場合に不正受給の割合を多く見積もっていた(図1)。さらに,不正受給の見積もりと支援政策への賛意に負の相関があった (r=.47, p<.001)。
考察
 不正受給の見積もりに対するBIJの直接的な影響は見られなかった。しかし,受給者に関する具体的な情報が与えられた場合に,BIJの高低による見積もりの差異がみられた。さらに,不正受給を多く見積もるほど支援政策に反対するという相関関係がみられた。この結果から,BIJが高い者において(1)受給者が道徳的である場合ならびに不道徳な受給者が死亡した場合には「不正受給」の見積もりは相対的に低いこと,(2)「自堕落」でありながら健康に生活している受給者が存在する場合,すなわち不道徳な振る舞いに対する「報い」が生じていない場合には,「不正受給」の見積もりが高まり,このバイアスが生活保護批判のレトリックを正当づけるものとして機能していることが示唆された。ただし,実験条件に関係なく見積もりの数値自体が高く,他の要因が影響している可能性もあるため,さらなる検討が必要である。

キーワード
公正世界信念/内在的公正世界信念/生活保護


詳細検索