発表

1C-019

人生における幸福とは何か?
現代哲学との接合を意識して

[責任発表者] 金子 迪大:1,2
[連名発表者・登壇者] 片岡 雅知#:3
1:京都大学, 2:日本学術振興会, 3:東京大学

目 的
 心理学における幸福研究では,主観的ウェルビーイング(Subjective well-being: SWB: Diener, 1984)を中心に,さまざまな幸福概念が用いられている。しかしどの概念が幸福を研究する上で適切なのかという問いは通常立てられず,それぞれ立場の特徴と対比が述べられるにとどまる(Huta & Waterman, 2014)。他方で,現代哲学では幸福に関する理論を大きく快楽説,欲求充足説,客観的リスト説に分類し(Parfit, 1984),いずれの説が適切かの議論を行っている。そこで,こうした議論との比較により,心理学の研究においてもより適切な幸福概念の検討を進めることができると期待できる。その比較の第一歩として本研究では,快楽説,欲求充足説,客観的リスト説のいずれが人生における幸福の基準として支持されるかを検討する。これにより,第一に,哲学者の唱える各分類は経験的にはどのくらい人々に支持されるかを明らかにする。また,快楽説・欲求充足説はSWBと多くの共通点を持つことから,第二に,SWBはどのくらい人々に支持されるかを間接的に明らかにする。

方 法
 クロスマーケティング社のモニター3,000名がウェブ上で調査に回答した。参加者は「あなたにとって,『最も幸せな人生』とはどのようなものですか」という質問に対して自由記述で回答した。記述された内容に対し,本研究の目的を知らない二名の評価者が下記の観点から分類を行った。
A.快楽説:本人の感情が含まれているもの
B.欲求充足説:自分が望んでいることの実現が含まれているもの
C.客観的リスト説:主観的な気持ちではなく,健康,自由,お金,知識,美,友情,家族,信仰,といった客観的な条件が含まれているもの
 評定者は同一回答を複数のカテゴリーに配置することを許容された。また,該当しないものがあるときは該当なしとした。評定者間で分類に不一致が生じた場合は協議の上分類を行った。

結 果
 無回答者,Satisfice(「この項目は左端を選択してください」)該当者,およびA~Cに該当しないと評定された参加者のデータを除いた1,953データのうち,A, B, Cのいずれか,あるいは重複して該当するデータの数は図1の通りである。
 CochranのQ検定を用いそれぞれの説に分類された人数に差があるかを検討したところ,Q (2) = 1,179.46, p < .001であり差が確認された。ペアごとの比較を行ったところ,客観的リスト説と快楽説(p < .001)および欲求充足説(p < .001)との間に差が確認され,快楽説と欲求充足説の間には差が確認されなかった。

考 察
 現代哲学が唱える快楽説・欲求充足説・客観的リスト説という幸福の分類の中で,人生における幸福を表していると人々が考える比率が高いのは,快楽説及び欲求充足説よりも客観的リスト説に分類される内容であった。快楽説及び欲求充足説がSWBに対応していることを考えると,心理学において幸福を適切に研究するためには,SWB以外の概念,例えばユーダイモニック・ウェルビーイングのような概念,あるいは哲学的には客観的リストに含まれる概念(e.g., 健康,自由,友情)を幸福というアウトカムとして検討を進める必要性があることが示唆されている。今後は客観的リストに含まれる内容のうちどのようなものがより幸福と見なされるかを検討することで幸福の実像に迫る。

引用文献
Diener, E. (1984). Psychological bulletin, 95(3), 542-575.
Huta, V., & Waterman, A. S. (2014). Journal of Happiness Studies, 15(6), 1425-1456.
Parfit, D. (1984). Reasons and Persons. Oxford University Press.

キーワード
幸福/客観的リスト説/主観的ウェルビーイング


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