発表

1C-017

心理的距離が援助行動に及ぼす影響の抑制可能性に関する検討
潜在的推論と顕在的判断の関連

[責任発表者] 谷口 友梨:1
[連名発表者・登壇者] 池上 知子:2
1:京都文教大学, 2:大阪市立大学

目 的
 Taniguchi & Ikegami (2019) では解釈レベル理論が想定するように,遭難事故の発生場所との距離を遠く知覚するほど,潜在レベルで遭難者の否定的特性が自発的に推論されやすく,その結果,遭難者に対する援助意図が低減することが示された。本研究の目的は,このような心理的距離によるバイアスをいかにすれば緩和できるかを検討することである。
 推論を行う際に正確さを動機づけると対応バイアスが緩和されることが示されている(角野・浦,2008)。一方で,潜在認知は意識的統制を受けにくいことも知られている(Gilbert, 1989)。したがって,正確さへの動機づけは,潜在レベルの推論と顕在レベルの判断の対応性を低める効果があると考え,自発的推論が心理的距離の影響を受けても,援助行動にはそれが反映されなくなると予測し検討した。【仮説1】事故に対して知覚された心理的距離が遠いほど遭難者の否定的特性が自発的に推論されやすく,遭難者の内的属性に事故の原因が帰属されやすい。その結果,同情が喚起されず,支援のための寄付金額が少なくなる。【仮説2】事故に対して知覚された心理的距離が近いほど遭難者の置かれた状況が自発的に推論されやすく,外的要因に事故の原因が帰属されやすい。その結果,同情が喚起され,支援のための寄付金額が多くなる。【仮説3】教示により正確さを動機づけると潜在レベルでの自発的推論が顕在レベルでの原因帰属に及ぼす影響は緩和されるが,その効果は事故概要提示前よりも事故概要提示後顕在判断を行う直前に正確さを動機づけた方が大きい。
方 法
 実験参加者 近畿圏にある大学の学生249名(男性127名,女性122名,平均年齢18.97歳)が参加(留学生2名を分析対象から除外)。
 手続き 以下の手順で個別に実験を実施した。1.正確さ教示 正確さ教示を与えない条件(教示なし),事故概要呈示前に教示を与える条件(教示前半),事故概要呈示後,顕在的判断の直前に教示を与える条件(教示後半)を設けた。2.事故概要の呈示 ある人物の遭難事故に関する概要(「悲惨な」状況,「軽率」という遭難者の特性をそれぞれ含意)を呈示し,よく読むことを求めた(50秒間)。半数の参加者には事故の発生場所を「イギリス」(遠条件),残り半数には「滋賀県」と伝えた(近条件)。3.妨害課題 概要呈示後,短期記憶から情報を排除するため全参加者に計算課題とパズル課題を計30分間実施した。4.再認課題 事故に対する自発的推論(特性 vs. 状況)を測定するために実施した。含意特性語,含意状況語,無関連特性語,無関連状況語を各7語および記載語28語を1語ずつ呈示し,概要内に「あった」か「なかった」かをできるだけ速く正確に判断することを求めた。5.顕在的判断 (1) 援助意図(7件法),(2) 遭難者を救助するためにいくら寄付をするか,(3) 救助のために遭難者の家族が負担すべき金額の割合,(4) 原因帰属:「遭難者の内的属性」(2項目),「事故発生の外的要因」(2項目)(7件法)(5) 印象評価:遭難者に対する同情,遭難者が類似した事故に再度遭遇する可能性(7件法)(6) 事故に対する心理的距離(7件法)。(7) 参加者の個人属性(性別,年齢,寄付経験の有無,寄付の頻度,登山経験の有無,登山に関する知識)に回答を求めた。6.内観報告を求めた後,ディブリーフィングを行い,実験を終了した。
結果と考察
 3つの教示条件群について多母集団同時分析を実施した (適合度はGFI = .93, RMSEA = .00)。その結果,全条件において,遭難事故の発生場所が滋賀県よりイギリスの方が事故に対する心理的距離を遠く知覚していた。しかし,教示なし条件では,心理的距離が遠いほど,遭難者の置かれた状況が自発的に推論されていた。また,潜在レベルで自発的に状況を推論するほど,顕在レベルで遭難者の内的属性に原因が帰属されにくく,同情が喚起されやすかった。結果,遭難者に対する援助意図が高まり,寄付金を多く払おうとした。一方,教示前半条件では,心理的距離は自発的推論に影響していなかった。ただし,自発的に特性を推論するほど,遭難者の内的属性に原因が帰属される傾向が認められた。また,予測と異なり,自発的に状況を推論するほど,遭難者の内的属性に原因が帰属された。これは,正確さを動機づけられることで潜在レベルの推論が過剰に修正されたことを示唆する。教示後半条件では,教示なし条件と同様,心理的距離が遠いほど,状況が自発的に推論されていた。ただし,自発的推論と原因帰属間のパスが非有意となり,自発的推論は顕在レベルの判断に影響していなかった。
 以上のことより,正確さを動機づける教示を行う際,そのタイミングによって我々の判断に及ぼす影響が異なることが示唆された。しかし,今回,解釈レベル理論の想定と異なり,事故に対する心理的距離が遠いほど,遭難者の置かれた状況が推論されやすかった。これは,心理的距離以外の要因が作用した可能性がある。

キーワード
解釈レベル理論/自発的推論/正確さ教示


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