発表

1C-016

「他者の動き」に関する情報を加えることは、災害発生時の避難意識を高めるか?
~平成30年7月西日本豪雨被災地における調査検討~

[責任発表者] 西村 太志:1
[連名発表者・登壇者] 相馬 敏彦:2, 福光 直美#:2
1:広島国際大学, 2:広島大学

「平成30年7月豪雨」は西日本を中心に各地に甚大な被害をもたらした。特に広島県では7月6日に大雨特別警報が発令され,避難指示(緊急)の緊急速報メールやSNS配信,TVやラジオでの注意喚起がなされたが,結果として地域に未曾有の被害をもたらした。東広島市で1632カ所,呉市1177カ所,三原市843カ所の山崩れが発生し,これらの被害は砂防学の専門家でも「想定外」というレベルであった(中国新聞,2018年8月1日記事)。現在も崩れた山肌が至る所にあり,再度豪雨が発生した場合に二次被害発生の危険性は高く,これまで避難が必要と考えられてなかった地域や場所でもその必要性は高まっている。
 このような状況では,いかに迅速な避難を促すかは重要な課題である。今回の災害で実際に避難行動をとった人は決して多くなく,東広島市で避難所に避難した人は約0.8%に過ぎなかった。高層階居住者など避難の必要が無い人も多いが,避難を躊躇したり,避難の必要性を過小評価した人も多かったと考えられる。
 避難しようとしたが逃げなかった人や,避難を検討しなかった人は「日常性バイアス」の影響を受け,リスクを過小に評価していた可能性がある。日常性の確かさが異常事態の認識を歪ませ,日常をベースに判断をする強い傾向をもたらす(池田,2013)。次の災害に備えるためにも,人々が日常性バイアスに拘泥せず,適切な避難行動を促す要因を明らかにし,実践的な方法を提案することは喫緊の課題である。
 では,避難を促す方法として何が有効だろうか。行動に乗り気でない場合でも,重要な他者の存在が行動を規定すると考えられている(広瀬,1992)。また浦田・羽藤(2017)は,避難開始時に周囲の人的ネットワークが避難の促進要因となることを実証的に示した。スマートホンの普及により,緊急速報メールによってより細かい範囲で個人に情報を提供することができるようになっているが,文面は形式的な内容である場合が多い。このメッセージに,「周囲の他者が行動を取り始めている」という内容を含むことは,避難行動の促進に結びつくと考えられる。そこで緊急速報メールを受信した状況を設定し,その状況での意識や行動について場面想定法を用いた調査を行った。
方法 対象者:地域住民対象の調査:サーベイリサーチセンターに調査を委託した。18歳以上の一般市民を対象とした。313 (東広島市101 ,呉市92 ,三原市46 ,安芸郡74)名がオンライン調査に回答した。実施期間は2018/11/22~11/28。大学生に対する調査:広島国際大学に在学する学生91(うち東広島市在住は47)名に対して,Googleフォームを用いたオンライン調査を実施した。調査実施期間は2018/10/4 ~ 10/31 。手続き:場面想定法を用いた。オンライン調査票で,「スマートホン画面に緊急速報メールが届いている状況」を想定してもらった。画面は「避難準備・高齢者等避難開始」「避難勧告」「避難指示(緊急)」のいずれかで,実際に発令された内容を一部改変した。他者の動きに関する情報を付与する条件では,文章の最後に,「あなたの地域の方はすでに身の安全を守る行動を取り始めています。」と追記した。呈示順序(あり・なし)はランダムとした。呈示後,「今後,このような避難情報を受け取る可能性はどれくらいあると思いますか」(避難情報),「この情報を見たときに,焦りを感じると思いますか」(焦り),「この情報を見たときに,政府や公的機関が対処すべきことはどれくらいあると思いますか」(行政対処),「この情報を見た後に,地域にはどのくらいの規模の被害が生じると思いますか」(被害可能性),「この情報を見た後に,避難する可能性はどれくらいあると思いますか」(避難可能性)を10点から0点の11件法で回答を求めた。
結果と考察 上記5つの得点を従属変数とし,レベル(避難準備・勧告・指示:参加者間)×他者の動きの有無(参加者内)の2要因共分散分析を行った(学生をダミー変数として共変量に投入)。
 「焦り」に関しては,レベルの主効果(F(2,400)=5.28, p<.01, 偏η2=.03)と他者の有無の主効果(F(1,401)=14.23, p<.001, 偏η2=.03)いずれも有意であった。多重比較の結果,避難レベルについては,避難準備と避難指示間に得点の差が認められた。また他者の動きの情報がある場合のほうが「焦り」を強く感じていた。「被害可能性」に関しては,レベルの主効果(F(2,400)=5.89, p<.01, 偏η2=.03)と他者の有無の主効果(F(1,401)=11.88, p<.01, 偏η2=.03)いずれも有意であった。多重比較検定の結果,避難レベルについては,避難準備と避難指示間に「被害可能性」得点に差が確認された。また,他者の動きの情報がある場合,「被害可能性」を強く感じていた。「避難可能性」に関しては,レベルの主効果は有意傾向であり(F(2,400)=2.83, p=.06, 偏η2=.01)他者の有無の主効果(F(1,401)=17.27, p<.01, 偏η2=.04)は有意であった。他者の動きの情報がある場合,「避難可能性」を強く感じていた。なお,「避難情報」「行政対処」に関しては,レベルの主効果も他者の有無の主効果も有意ではなく(Fs<1.30),交互作用効果は5つの従属変数全てに対して有意ではなかった。
 結果から,「他者の動き」に関する情報の付与は,それを受け取った人に「焦り」を感じさせ,地域に被害が生じる可能性や自分自身が避難をする可能性を高く認識させることが示された。周囲の他者が具体的に避難を呼びかけることは当然有効であるが,このようなメール等の文面の中に,周りの他者という行動基準に関連する情報を含むことの有効性が示唆された。
注:本研究は日本心理学会「2018年度「大阪府北部地震・西日本豪雨災害からの復興のための実践活動及び研究」助成を受けた。一部は広島国際大学心理学部2018年度卒業生の林田奈々さんの卒業研究としてまとめられた内容に基づく。

キーワード
避難意識/豪雨災害/「他者の動き」に関する情報


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