発表

1C-015

集団主義文化における対立的討議の実験研究
―対人葛藤と言語・非言語行動による対処方略に関する日本人と中国人の比較―

[責任発表者] 木村 昌紀:1
[連名発表者・登壇者] 毛 新華:2, 胡 金生#:3, 小林 知博:1
1:神戸女学院大学, 2:神戸学院大学, 3:遼寧師範大学

 問題
 従来,欧米と対比されながら,東アジアの日本人と中国人の心理特性の共通点が注目されてきた(e.g., Murkus & Kitayama, 1991)。実際,話し合って一つの結論を導く協調的な討議では,両者とも親しみやすさや社会的望ましさの自己呈示動機が高く,他者との調和を目指す集団主義的志向性がみられた(木村・毛, 2013)。しかし,個人間の利得が相反する対立的な討議では,両者の相互独立性の違い(e.g., 高田, 1997)が顕在化しうる。本研究の目的は,集団主義文化における対立的討議を実験的に検討することである。その際,対人葛藤,言語・非言語的対処方略等に注目し,日本人と中国人それぞれ未知関係と友人関係の討議を比較する。
 方法
 実験参加者 日本人は関西の大学で募集し, 未知関係(平均年齢19.85歳±0.75歳)20組40名と友人関係(平均年齢19.63歳±0.46歳)23組46名の女性が参加した。中国人は遼寧省の大学で募集し,未知関係(平均年齢19.13歳±0.46歳)と友人関係(平均年齢19.65歳±0.80歳)各20組40名の女性が参加した。
 手続き まず, 社会的問題(e.g., 人生で成功するためには学歴が必要か)から関心あるテーマを各ペアで選んでもらった。次に, 実験者が無作為に「賛成」「反対」の立場を指定して, 互いに相手を説得するよう教示した。討議の動機づけを高めるため, 基本的な謝礼に加えて, 相手を説得できた程度によって追加謝礼を支払う旨を伝えた。討議の様子はVTRで撮影した。会話終了後, 質問項目に回答してもらった。最後に, ディブリーフィングを行い, 実験を終了した。
 質問項目(1)対人葛藤(Jehn, 1994, 村山・三浦, 2012; 課題葛藤・関係葛藤, 7件法)(2)一般感情(小川・門地・菊谷・鈴木, 2000; 肯定的感情・否定的感情・安静状態, 4件法)(3)自己呈示動機(Leary et al., 1994, 谷口・大坊, 2005; 外見的魅力・有能さ・社会的望ましさ・個人的親しみやすさ, 7件法) (4) 葛藤対処行動(Van de Vlier, 1997, 村山・三浦, 2014; 譲歩・妥協・主張・統合・回避, 7件法)(5) 対人コミュニケーション認知(Bernieri et al., 1996, 木村・大坊・余語, 2010; 8件法)。中国語の項目は, 中国人大学教員(日本滞在14年以上)2名が協議して翻訳した。
 行動特徴の抽出 会話の音声映像を視聴し, 訓練を受けたコーダー4名がsigsaji (荒川・鈴木, 2004)で, 笑顔・発話・うなずき・視線の生起時間を定量化した(時間的分解能は0.5秒)。一致率を確認し, 指標ごとに平均値を算出した。
 結果と考察
 各従属変数に,国と関係性を独立変数とする2要因分散分析を行った。まず,対立的討議時の課題葛藤に日中差がなかった一方, 関係葛藤は中国人より日本人が強く感じていた(図1)。また, 肯定的感情と安静状態は中国人の方が,否定的感情は日本人の方が高かった。次に, 討議中の笑顔やうなずきは中国人より日本人の方が生起していた(図2a)。これは,対立的討議の際に中国人よりも日本人の方が外見的魅力・社会的望ましさ・親しみやすさの自己呈示動機が高かったことと整合する。ただし, 友人関係の視線は日本人より中国人の方が多かった。そして,言語的対処方略は,妥協・統合・回避は中国人が日本人より採用していた(図2b)。譲歩と主張は友人関係では日中差がなかったが, 初対面では日本人が譲歩しやすく中国人が主張していた。最後に,対立的討議の認知は日本人よりも中国人の方がポジティブであった(図3)。
 これらの結果から,集団主義文化圏とされる東アジアで暮らす日本人・中国人の両者は,対立的討議でも他者との調和を追求することが示唆された。しかし,そのアプローチは異なり,日本人は笑顔やうなずきなどの非言語行動で協調的姿勢を示す一方,言語的な対処は消極的だった。それとは対照的に,中国人は非言語的には真摯に眼差しを向けながら, 硬軟織り交ぜて積極的な言語的対処をしていた。対立的討議が苦手な日本人と違い,中国人は関係葛藤を知覚しにくく,平静を保って議論を楽しめるものと推察される。ただし,中国内でも地域の経済的豊かさ(Takemura et al., 2016)や生業(Talhelm et al., 2014)で文化的自己観が異なるため,知見の一般化には慎重な検討を要する。
註: 本研究はJSPS科研費16K04276の助成を受けた。

キーワード
集団主義/対立的討議/日中比較


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