発表

1C-014

特性自己概念の個人内変動における自己愛と自尊心の効果

[責任発表者] 福島 治:1
1:新潟大学

 一般的なマルチレベル分析では,上位ユニット内の分散を表すレベル1残差の分散はユニット間で同質であると仮定する。しかし,特性自己概念の縦断評定データのように,個人をレベル2ユニットとする場合,この残差分散は個人内分散を表す。個々人の反応の多様性を考えると,個人内分散を同質だと仮定することは現実性に欠ける。幸いなことに,ユニット内分散がユニット間で異なると仮定するモデルがある(Hedeker et al., 2008)。
 Geukesら(2017)は,自己愛者の自尊心が変動的であることを示すために,このモデルを適用し,個人内分散についても切片と自己愛の傾きを持たせた方程式を作った。RでWinBUGSを操作しMCMCサンプリングに基づくベイズ推定を行い,自尊心の個人内分散の切片にランダム分散があること,そのいくらかを自己愛で説明できることを示した。
 本研究では特性自己概念の変動性の分析において,レベル2の説明変数に自尊心も加え,Geukesら(2017)と同じモデルに基づき,彼女らが公開しているRスクリプトを修正して分析を行った。本研究のモデルでは,固定効果として切片と傾き(時間,自己愛,自尊心)が,ランダム効果として切片と各傾きの分散が,さらに個人内分散に対して切片と自己愛および自尊心の傾き及び残差が仮定された。
 方 法
参加者 研究参加に同意した大学生298名のうち21名は反応過少で除外し,自己愛と自尊心のスコアが得られた255名(男性122名,女性133名)を分析対象とした。
手続き 参加者は自己愛尺度(NPI)とローゼンバーグ自尊心尺度を含む質問紙に回答した。その後,一カ月の間に10回の評定機会を与えられ,その都度,Big fiveに対応する特性語15項目について「まったくあてはまらない(1)」~「非常によくあてはまる(7)」の7段階で自己評定をした(「話し好き」,「親切」,「まじめ」など)。また,回答時に一緒にいる人の種類(家族か友人かなど)を尋ねたが,本研究の分析には用いなかった。
 結 果
 表1は,特性ごとにベイズ推定を実施した結果である。固定効果とランダム効果の部分は,通常のマルチレベル分析と同様である。ここでは個人内分散に着目する。
 個人内分散は指数関数でモデル化されており,自己愛の傾きをβ1,自尊心の傾きをβ2とすれば,個人内分散 = exp (切片+β1×自己愛+β2×自尊心+残差)と表せる。評定値と同じスケールで分散をみるためには変換が必要で,自己愛と自尊心を0(平均値)としたときの切片は外向性から順に1.214, 0.781, 0.926, 0.765, 0.518である。これらは,マルチレベル分析のレベル1残差に相当する。
 自尊心の得点を0としたときの自己愛(-1SD, +1SD)における個人内分散の値は,外向性から表1の表示順に(1.095, 1.346), (0.655, 0.932), (0.781, 1.098), (0.593, 0.987), (0.437, 0.615)であった。自己愛の高い人は低い人に比べて神経質性で1.7倍,協調性,誠実性,開放性で1.4倍,外向性で1.2倍の分散を有していた。一方,自尊心の高低による個人内分散の差は特性によって異なり,神経質性は1.5倍,開放性は1.3倍ほど低自尊心の方が分散が大きかったが外向性は1.1倍, 協調性と誠実性は1.0倍と自尊心による差はほとんどなかった。
 表1最下行の残差は,個人内分散に関するランダム効果である。個人内分散の値が人によって異なる程度を示している。どの特性も比較的大きな値であり,自己愛や自尊心で説明できない個人内分散の個人差があった。
 考 察
 自己愛的である人ほど特性自己概念の個人内変動が大きかった。自己愛者の不安定さに関する研究では,よく自尊心が目的変数となる。これは自己の評価的側面が不安定であることを示すために重要だが,自己愛者は自己の意味的側面も不安定であった。
 一部の特性に限られていたが,自尊心が低いほど特性自己概念の変動が大きかったことは,変動性指標としてself-concept differentiationを用いた知見とも一致する。
 引用文献
Geukes et al. (2017). JPSP, 112, 769-786.
Hedeker et al. (2008). Biometrics, 64, 627-634.

キーワード
自己概念/自己愛/個人内分散


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