発表

1C-011

生い立ち情報がハラスメント非難の緩和に与える影響の検討
公正世界観からみた加害者への責任帰属

[責任発表者] 北村 英哉:1
[連名発表者・登壇者] 山口 雄人#:1, 石橋 加帆:1, マイケル ジェイジル#:2
1:東洋大学, 2:Lehigh University

問題と目的
責任帰属についてGill & Cerce(2017)は,加害者の行為時の意識的な意図による自由意志の問題とは別に,自身の養育環境,生い立ちについてコントロールができないという統制不可能性に基づいた自由意志の欠如を取り上げた。そこでは,歪められた自身の性格や動機づけのあり方が,「こんな風になりたくてなったのではない」ということから,ある種の自由選択による結果でないという側面をクローズアップしている。Gill & Cerce(2017)では,生い立ち情報を含めたシナリオ実験によって,加害者自身が過去に虐待を受けたという生い立ち情報が,その加害者に対する非難を緩和する影響のあることを示した。本研究は,この追試を含めて,3種類のシナリオを用意した上で,公正世界観との関連を検討する。 
方法
調査参加者 調査はクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を使用し,10代から60代の男女191人から回答を得た。回答不備が見られた不備データを除去し,最終的に180名(女性122名,男性54名,それ以外4名)を分析対象とした。平均年齢は,36.0歳であった。
調査項目 調査項目は,Gill & Cerce(2017)に倣い,非難 (5項目),属性帰属 (4項目),生い立ちの勘案 (4項目),自由意志 (1項目),自己形成の統制可能性 (1項目),幼少期の被害 (3項目)を翻訳して用いた(5件法)。非難のなかに,「許せない」1項目を加えた。
実験シナリオ 加害者が会社のなかで部下にハラスメントを行う行為のみのハラスメント条件と,行為の後,反省するさまを描いた反省条件,自身が子ども時代に父親から虐待を受けていたことを記した(被)虐待条件の3条件を用意して,ほぼ同数の参加者データを得た。
手続き 参加者は配布されたQRコードに基づき,調査サイトにアクセスして,3つのシナリオのうちいずれか1つを読んだ上で,調査項目の項に示した質問項目群に回答した。同時に政治的態度についてのいくつかの質問に対しても回答を得ているが,ここでは報告を割愛する。

結果・考察
 生い立ち(自己形成の統制不可能性),自由意志についての1項目ずつ以外の項目の因子分析の結果から,非難(5項目),生い立ちの原因としての勘案(6項目)についての下位尺度を構成し,それぞれを従属変数とする重回帰分析(HAD:清水,2016による)を行ったところ,両方においてシナリオの効果は有意で,生い立ち条件は非難を緩和し,ハラスメント行為の原因を加害者の過去経験に由来するものと回答するという先行研究と同様の傾向が確認された。加害者の行為時の自由意志についてはシナリオ間で差は見られず,自己形成の統制不可能さは行為時の自由意志とは区別される新たな行為者の自由にまつわる概念であることが確認された。
 非難はハラスメント条件で最も強く,反省条件はそれに次ぎ,生い立ち条件は最も非難が弱かった。また,公正世界観の強い者においてシナリオを越えた同様の非難を与えるが,弱い者では,虐待経験による緩和が見られるという実験条件と公正観の交互作用が見られた。公正観の強い者はいずれにしても悪い事をした者を罰し,非難する傾向があり,そうした公正観の弱い者においてのみ虐待経験の生い立ち情報を勘案して非難を緩和する結果が見られたものと考えられる。
 公正観の強い者は,虐待経験そのものや父親ふくめて家族全体が罰されるに値するものと,公正世界観に基づいて考えたかもしれない。すなわち,よくない結果に陥ったなんらかの原因が存在するものと推論した可能性も解釈のひとつとしてあり得る。どういった推論によって厳罰を決定するかより詳細なプロセス,思考の流れを検討していく必要があるだろう。



 本研究は,科学研究費基盤研究(B)研究代表者:唐沢穣 18H01078,および,関西大学特別研究員としての支援を受けた。

キーワード
責任帰属/生い立ち/ハラスメント


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