発表

1B-020

児童虐待対応におけるサインズ・オブ・セーフティ・アプローチの統計的根拠検証の試み
―各技法を指標にしたベイズ推定によるアプローチ―

[責任発表者] 佐名 隆徳:1
1:千葉県中央児童相談所

●問題
 児童虐待防止対策の目標は,虐待を受けた子どもが安全で安心できる生活を保障するにとどまらず,適切なケアや治療を提供することによって,子どもの心身の健全な発達と自立を促すこと,さらには親への適切な指導・支援を通じた‘家族再統合’や‘家族の養育機能の再生・強化’にある。そのためには子どもの安全確保を明確に意識し,位置づけた対応が必要であり,サインズ・オブ・セーフティアプローチ(Signs of Safety Approach, 以下SofS)の考えに基づき進めることができると考えられている。
 SofSは,1990年代,西オーストラリア州に始まり,以後,世界的に広がりを見せている児童虐待対応の相談援助ソーシャルワークの考え方である。当事者である親と子どもが主体的に安全な生活を築くためのアプローチで,家族の強みを引き出し,支援者と親がパートナーシップを築き,安全とリスクをバランスよくアセスメントするものである。
 SofSをベースとしたソーシャルワークは日本国内でも広まりを見せている。その有用性について,諸外国では組織的導入前後で,再虐待率,一時保護児童数,社会的養護下の児童数の減少等が報告されているが,日本では,客観性をもって説明できるデータがない。そのため本研究では,このSofSの有効性,児童虐待対応における費用対効果を説明するため,より妥当性のある指標の選別と統計的な検証による効果測定を実施した。検証の対象は,SofSで用いる各種技法とし,それぞれの技法が児童虐待対応においてどのようにポジティブな影響を与えるか,という視点で進めていきたい。

●方法と仮説
1. 対象
 恣意的なケース選定を避けるために児童福祉司5名のうち,平成30年4~5月に受理したケースの結果を用いた。
2. 分析方法
 得られた質問紙データを統計的に処理した。統計ソフトはR-3.5.2を使用。主な使用パッケージはRstan。本分析はマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)を用いたベイズ推定により母数推定を行った。母数の事前情報を推定に用いる目的や,サンプルサイズが少ない場合にもそれに直接影響されない母数推定を行うという目的に,ベイズ推定の利用が近年増加している。本研究でもサンプルの少なさに直接影響されない推定ということで,ベイズ推定を用いた分析を実行した。
 なお,ベイズ推定を用いてサンプルサイズの少なさを補うため,一時保護日数については過去のデータを参照可能であったため,平均値については平成28年度の全体の平均値である40.7,標準偏差は平成29年度におけるある児童相談所のデータを使用して62.1という値を使用し,事前分布として設定した。(※一時保護期間の性質上,極端に一時保護が長引くケース,つまり外れ値となるケースが複数想定されるため,それを想定した分布として平均値40.7,標準偏差62.1のcauchy分布を事前分布に設定した。)
3.仮説
 SofSで用いられる各技法を使用することにより,一時保護日数が減少する。

●結果と考察
 SofSで用いられる各技法を使用することにより,一時保護日数が減少するかを検討した。得られたデータをもとに,指標とする技法を,「デンジャーステイトメントを作った」「セイフティゴールを作った」「セイフティスケールを作った」「ソリューションな質問を用いた」の4つに絞り,階層ベイズモデルによる分析を行った。
 結果は以下の図表のとおり,,一時保護日数減少に寄与するのは「デンジャーステイトメントの作成」であることが示された。
 「一時保護日数の減少」はアプローチの効果があった結果とみなすかは議論の余地がある。家族がじっくり考える時間ができた結果,一時保護期間が長くなるというケースも現実にあり,有効性の指標に用いて良いのかは現在のところ結論は出ていない。しかし,本研究ではあくまでも一時保護期間の変化があるか,一時保護期間に当アプローチが影響を及ぼしたかという観点でみており,有効性という観点での議論は今後の課題となると思われる。ケース個々の状況に左右されやすく分散の大きい一時保護日数ではなく,面接回数や,ケース全体を分母にした再受理・措置の比率を指標としてみていくことも今後は検討すべきと思われる。

●参考文献
菱川 愛(2013) サインズ・オブ・セーフティ・アプローチ ソーシャルワーク研究39-1

キーワード
サインズ・オブ・セーフティ・アプローチ/児童虐待/ベイズ推定


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