発表

1B-019

避難政策が住民の帰還意識へ与える影響

[責任発表者] 水田 恵三:1
1:尚絅学院大学

目 的
 福島原発災害から8年余が経過した。福島県浪江町からの避難者は,人口17434人から浪江町の戻った966人を差し引いた16400人余が浪江町以外の地に避難するか,住居を構えて,居住している。とりわけこの浪江町は原発の立地地域ではないにもかかわらず,原発災害後の放射能の影響を強く受け,町の3分の2が帰還困難区域となり,町への帰還を妨げている。
 原発災害後,浪江町と分散した住民との分断を避ける目的で始められたのが「なみえのこころ通信」である。これは広報なみえの一部として,市民に市報を届ける形で伝えられた。浪江のこころ通信は以下の3つの役割があると言われている。1 お互いの生活状況や憩いの共有 2 町民の皆さんの声を復興に活かす 3 町民の皆さんの声,憩いの記録
この中で特に1は 分散した住民をつなぎ止める役割として十分な機能を果たしているといえる。ここでは3の住民の声の記録としてを利用して,住民の時系列的な心情を分析する。
 方 法
 なみえこころ通信に記載されている方取材時年月日2011年11月から2018年12月まで380名(団体を含む)の震災前の住所,現在の住所,住居形態,現在の心境,将来の見通し,子ども(避難時高校生以下)の有無,団体活動を調べた。
避難者の帰還意識を左右する政策として,まず浪江町による第一次浪江町復興計画がある。これは2012年10月に策定されたもので,5年後の2017年には避難指示を解除し本格的復興に備えるというものであった。また国による放射線量による制限の設定。具体的には避難指示区域の見直しによる帰還困難区域(A),居住制限区域(B),避難指示解除準備区域(C)の設定(2013年8月完了)。そして,2017年のB,Cの解除であろう。そこで,策定前にも住民への説明が為されていることから,1 2011年から2012年末を分断前期,2 2013年から2016年までを分断期解除前,2017年以降を解除後として,特に住民の帰還意識を調べた。

結 果
 まず,全体的380名の中で,震災前に帰還困難地域(面積としては浪江町の8割を占める)に居住していた方は37名(9.7%)と少ない。また,回答時点で福島県内に居住していた方は210名と55% 半数以上を占める。
 次に,1 分断前期 175名中,浪江に帰りたいと述べていた方は28名 16.7%,2 分断後解除前 167名中 浪江に帰りたいと述べていた方は22名 13% とやや減少しており,解除後も帰還解除地域の住民が多く含まれているにもかかわらず,浪江に帰りたいが44名 4名 9%と減少している。また,将来の見通しの内容も,分断前は帰るのが不安でも帰りたいとしているのに対して,分断後は帰るのは無理と判断しているものが増えている。
 分断決定後「帰るのは無理」と判断している方が多く見られ始めている。その一方で,帰るのは叶わないが,帰りたいという心情を吐露する方も散見される。

考 察
 浪江町が行っている住民調査を見ると,浪江町に戻りたい意向は2013年の調査では18.8%,2018年末では16.7% と減少している。
 三地域に分断前に浪江町が策定した復興計画は,5年後(2017年)から帰還することで,町は5年間は帰れないとは言っていない(元副町長の言葉)にも関わらず,すぐにでも帰ると思っていた住民が,少なくとも5年は帰れないのだと判断したようである。さらに追い打ちをかけるように,国から3地域に分断の政策が打ち出されたことは,帰還困難地域は長期間帰還できないとだめを押されると共に,帰還準備地域の人にとっても町の8割を占める地域が帰還困難であるのに自分たちだけ帰っても他の人が帰らない状況が納得出来なかったのであろう。また,一時帰宅を許されて帰ったときのフレコンポストの多さ(最初は黒色で異様でもあった),除染をしているはずなのに一向に下がらない放射線量や手つかずの山林除染,一向に進まない福島第一原発の廃炉などが重なって,帰還意識が進まなかったと思われる。
また,今回調査の避難者の内容を見ると,放射線量への言及が,子どもを持つ方のみならず,年配の方にも多く見られた。除染や廃炉が,避難者の納得いく形で進められ,線量も下がっていたならば,帰還意識ももう少し高くなったであろうと思われる。


引用文献
浪江のこころプロジェクト実行委員会 2014年 浪江のこころ通信〜震災後3年間の記録〜 
浪江のこころプロジェクト実行委員会 2017年 浪江のこころ通信〜避難指示一部解除までの記録〜
 浪江町HP 浪江のこころ通信
注1 今回の発表に当たり,東北圏地域づくりコンソーシアムの協力を得ました。
注2 この研究は文科省科学研究費 原発災害後故郷を離れた高齢者のウェルビーイング―福島県浪江町の人々の
復興支援―(研究代表者 水田惠三)の助成を受けている.

キーワード
原発災害/避難政策/帰還意識


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