発表

1B-017

現在の困難も,未来への一歩として
―訪問看護師を対象とした,継承的視点からの捉え直しを促す介入の効果検証―

[責任発表者] 平野 智子:1
[連名発表者・登壇者] 藤 桂:2
1:訪問看護ステーションコスモス, 2:筑波大学

 問題と目的
 在宅ケアを基盤とする訪問看護事業への需要が高まっている一方で,訪問看護師の人材確保が課題となっている。訪問看護とは,在宅で療養する人々に対し,彼らが望む生活の質を維持・向上させることを目的に提供する看護である。しかしそれゆえに,現場での責任の重さ,支援時の揺らぎや悲嘆など,多様な心理的困難の存在が指摘されている(例えば小桧山,2011)。これらの心理的困難があっても,訪問看護師としての職務への継続意図を支える要因にはどのようなものが存在するであろうか。
 その要因の一つとして,「一人の人格をケアすることは相互的な行為である」というケアリングの相互性(Mayeroff,1971)が挙げられる。利用者へのケアを相互的なものとして実感することが職務継続につながる可能性は近年の研究でも示されており,例えばGregg(2002)は,利用者への支援を通して,看護師自身が看護への学びを深めることがあり,それによって自身の看護観を確立するという過程を示している。また平野・藤(2018a)も,多くの訪問看護師は深刻なレベルの心理的困難を経験している一方,支援を通して自身もまた様々なものを「受け取っている」と感じていることを示している。
 こうした相互性の実感に関して平野・藤(2018b)では,支援時における心理的困難に対し,「現在の困難な経験が,これからの自分の看護に受け継がれていく」というように,未来へ向けた継承的視点から捉え直すことが重要であり,ひいては自身の看護観の確立の促進にもつながるという過程を示している。この知見に基づけば,困難な事例に直面している訪問看護師に対し,上述のような捉え直しを促す介入を行うことで,揺らぎつつある看護観を支えることができる可能性も期待される。そこで本研究では,現職の訪問看護師に介入研究を行い,未来へ向けた継承的捉え直しが看護観の確立に与える影響を検証することを目的とした。

 方 法
実験参加者 現職の訪問看護師91名(実験群45名,統制群46名;平均44.24歳,SD=10.0;男性5名,女性86名)。
実験計画 継承的捉え直しを促す介入の有無(実験群 vs 統制群)×時期(pre, post)の2要因混合計画。
実験手続き 2週間の間隔で2回のメールの送受信を行い,介入と測定を行った。1回目のメールでは,現在,困難に感じている事例について尋ねるとともに,訪問看護師の職業的アイデンティティ尺度(山口・百瀬,2008)における「看護観の確立」の5項目(7件法)を尋ねた。その際,実験群のみ,未来に向けた継承的捉え直しを促す目的で「ご記入いただいた事例が,これからのあなたが関わる利用者に活かされていくとしたら,あなたの看護に受け継がれるものがあるとしたら,それはどのようなものでしょうか」と教示した。続いて2回目のメールでは,再度,看護観の確立(山口・百瀬,2008)を測定しつつ,捉え直しに関する操作チェックとして1回目で回答した困難な事例に対する捉え方に変化が生じたか,および,ケアリングの相互性の実感が生じたかどうかについて,自由記述形式で尋ねた。

 結 果
操作の確認 2回目のメール内で,当該の困難事例に対する捉え方が変化したことを記述していた者の人数は実験群で29名,統制群で13名であり,χ2検定の結果は有意であった(χ2(1)=11.98,<.01,φ=.36)。さらに当該の事例に関し,支援を通して自身もまた受け取っているものがあると記述していた者の人数は実験群で37名,統制群で20名であり,χ2検定の結果は有意であった(χ2(1)=14.59,<.01, φ=.40)。
看護観の確立への効果 山口・百瀬(2008)の5項目の平均値を従属変数とし,介入の有無×時期の2要因混合計画分散分析を行った結果,交互作用が有意であった(F(1,89)=33.02,<.01,ηp2=.27)。単純主効果検定(Bonferroni法)の結果,実験群ではpreからpostにかけて有意に上昇し(F(1,89)=29.75,<.01,ηp2=.25),かつ,postにおいて実験群の方が有意に高かった(F(1,89)=4.03,<.05,ηp2=.04)。

 考 察
 利用者との関わりの中で様々な心理的困難に直面している訪問看護師に対し,未来に向けた継承的捉え直しを促すことは,当人の持つ看護観を支え,看護師としての職業アイデンティティの維持に寄与し得ることが示された。したがって平野・藤(2018a, b)と同様に,現在直面している困難に対し,未来に向けた継承的視点から捉え直すことは,訪問看護師の「これからも仕事を続けていこう」という未来への一歩を支えるものとなる可能性が推察される。

キーワード
訪問看護/継承的視点からの捉え直し/看護観の確立


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