発表

1B-016

福島第一原発事故による食品の放射線リスクへの態度(2)
9波パネル調査データによる3地域差と8年間の推移の検討

[責任発表者] 楠見 孝:1
[連名発表者・登壇者] 三浦 麻子:2, 小倉 加奈代#:3, 西川 一二:1
1:京都大学, 2:大阪大学, 3:岩手県立大学

 目 的
 本研究の目的は,福島第一原発事故による食品の放射線リスクに対する態度や情報源の信頼性評価の地域差と時間的推移,それらの規定要因を検討することにある。そこで,2011-2014年の4波の調査に対する分析を行った三浦・楠見・小倉(2016)に基づいて,2015-2019年のデータを含む9波の調査データに基づいて分析をおこなった。
 方 法
 [調査参加者] 2011年9月中旬と2012-2019年の毎年3月の9時点において,オンライン調査により実施。被災県(岩手・宮城・福島),首都圏(東京・千葉・神奈川),関西圏(京都・大阪・兵庫)の20-50代既婚男女。参加者は1回目1752名(男876名,女876名,平均年齢40.1歳)で,2回目以降は表1に示す。1回目回答者の属性は子どもあり(73%), 最終学歴は大学(40%),高校(27%),短大・専門学校(24%)。職業は専業主婦(夫)(28%),民間企業事務職(20%),パートタイマー(13%)などであった。
  [質問項目] (1)放射線物質による汚染に対する態度 被災地の食品に対する回避態度(2項目;例:汚染濃度が基準値以下でも食べたくない),放射性物質影響不安(5項目;例:福島第一原発による放射性物質の影響が非常に不安だ),放射線知識・積極的収集(4項目;例:テレビや雑誌などの放射能の健康に及ぼす影響の情報をうのみにせずに,後から複数の情報源から確認するようにしている)。
  (2)批判的思考態度尺度 批判的思考態度尺度(平山・楠見,2004)を改訂した計12項目(楠見・平山,2013)。(1)から(2)の各項目について,「1:あてはまらない」から「5:あてはまる」の5段階で評定させた。
  (3)情報信頼性評価 放射能の健康影響に関する情報を探す際に,15の情報源に対する信頼性評価を5段階(1:信頼できない-5:信頼できる)で評定させた。
そのほか,放射線知識(人体への影響)(3項目,放射線物質の健康影響に関する4択クイズ),放射線知識(科学的知識)(3項目;例:自然放射線と人工放射線の区別),放射線物質の健康影響に関する4択クイズ),放射線主観的知識(12項目,5件法;例:放射線に関する単位を理解している)を測定した。
 結果と考察
 1. 「放射性物質による健康影響への不安」「リスク情報の積極的収集」「被災地産食品に対する回避傾向」は8年の時間経過によって,3地域とも低下した。小学生以下の子どもがいる人は,放射線リスクにより敏感で,被災地産食品回避傾向があった。
 2. 情報信頼性評価については,信頼性評価が1回目で低かった[政府の記者会見]は,2.20から2.56に,[安全を説明する専門家]は2.53から2.73に,2年目以降に若干上昇したが,中点の水準には達していない。一方,信頼性評価が1回目で高かった[危険を説明する専門家]は3.08から2.96に下降した。
 3. 被災地産食品に対する回避傾向を目的変数として,重回帰分析を行った。その結果,表1に示すように,回避を促進する人口学的変数は,子どもあり,年齢が若いこと,被災地からの距離が遠いことであった。一方,放射線影響不安の影響が最も大きいが,半年後から8年後になるにしたがって徐々に小さくなった。一方,「批判的思考態度」による抑制効果は,半年後から6年後になるにしたがって大きくなり,その抑制効果の大きさは8年後まで同じレベルを維持していた。
 4. 交差遅れモデルによる分析の結果,図1に示すように,[被災地産食品への回避傾向]には,前の時点の[放射性物質影響不安]が促進的に,[批判的思考態度(CT)]は抑制的に働いていた。また,[不安]と[批判的思考態度]は[放射線関連知識・積極収集]を促進していた。
 以上の結果は,事故半年後から一貫して,放射能に対する不安(システム1)が,被災地産食品の回避行動を強く促進している。しかし,8年の時間経過により,不安の影響力は弱くなりつつある。一方,批判的思考(システム2)は回避行動を抑制しており,その影響力は事故1年後までと比べると上昇している。

キーワード
リスク認知/態度/批判的思考


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