発表

1B-011

大学生活充実度の変化
大学での学業遂行と適応を支える心理的特性 (13)

[責任発表者] 小城 英子:1
[連名発表者・登壇者] 畑中 美穂:2, 川上 正浩:3
1:聖心女子大学, 2:名城大学, 3:大阪樟蔭女子大学

問題と目的
 畑中・川上・小城(2016)は,大学生の学業遂行を支え,ひいては大学適応を導く心理的特性を心理的耐久性と名付けた。心理的耐久性は,新しいことに積極的に取り組み学ぶ志向性を示す「開拓・成長志向」,困難に直面しても耐えられる力を示す「打たれ強さ」,努力を続ける志向性を示す「努力志向」,現状を改善しつつ物事をやり遂げる志向性を示す「改善・完遂志向」,成功体験に起因する自信の程度を示す「自信・成功体験」の5つの下位概念から構成される。畑中他(2018)は,「大学へのコミットメント」「交友満足」「学業満足」「不安のなさ」の4つの下位概念から構成される大学生活充実度に対して,心理的耐久性の下位概念のうち「打たれ強さ」がもっとも規定力が高いこと,「改善・完遂志向」が大学生活の不安を促進する関係にあること,一方で,心理的耐久性のいずれの下位概念も「学業満足」とは関連していないことなどを見出している。
 心理的耐久性の5つの下位概念を用いてクラスタ分析を行ったところ,すべての得点が高い「トータル・デュラブル群」,すべての得点が低い「ネガティブ・スパイラル群」,下位尺度得点が概ね低いものの「自信・成功体験」だけが高い「自己完結型タフネス群」,下位尺度得点が概ね高いものの「自信・成功体験」だけが低い「自信欠如型デュラブル群」の4クラスタに類型化されている(小城他,2015)。
 本研究では,大学生活充実度の時系列変化をクラスタごとに比較することによって,大学適応の実態とそのメカニズムを解明する。
方法
調査対象者 私立大学1年生227名が調査に参加した。そのうち,2時点でのデータがそろった187名を分析対象とした。
調査内容 心理的耐久性尺度(畑中他,2016),大学生活充実度(奥田他,2010)(いずれも5件法)。調査票には他の尺度項目も含まれていたが,本研究では割愛する。
調査時期 2015年4月と7月に調査は実施された。
調査方法 個別自記入式の質問紙調査が集団で実施された。
結果
 心理的耐久性ならびに大学生活充実度については,それぞれ下位尺度得点を個人ごとに算出した。心理的耐久性尺度の5つの下位概念を用いてクラスタ分析を行い,小城他(2015)に倣って回答者を4クラスタに分類した。
 クラスタと時期を独立変数,大学生活充実度の4つの下位概念を従属変数とする4×2の二元配置分散分析を行った。その結果,クラスタの主効果は4つの下位概念すべてにおいて有意であり(大学へのコミットメント;F(3,183)=18.32, p<.01,交友満足;F(3,183)=21.50, p<.01,学業満足;F(3,183)=7.99, p<.01,;不安のなさ;F(3,183)=12.21, p<.01),概ね「トータル・デュラブル群」で適応的,「ネガティブ・スパイラル群」で不適応的,「自信欠如型デュラブル群」と「自己完結型タフネス群」は中間に位置しているが,それぞれ「学業満足」「交友満足」が高いという特徴が認められた。時期の主効果については「大学へのコミットメント」において低下(F(1,183)=35.83, p<.01),「交友満足」において上昇する傾向(F(1,183)=16.06, p<.01)が認められた。「学業満足」においては交互作用の有意傾向が認められた(F(3,183)=2.13, p<.10)。平均値をFigure1に示す。
 これらのことから,実際の大学生活の経過とともにどのクラスタにおいても「学業満足」は低下するが,その傾向は「トータル・デュラブル群」と「自信欠如型デュラブル群」において特に顕著であること,全体的に「学業満足」は低下するものの,代わりに学内でのソーシャル・ネットワークが構築されて「交友満足」が上昇することが示された。
考察
 大学生活に意欲的で真摯に取り組もうとする群ほど3ヶ月後に「学業満足」が低下することは,2つの可能性が考えられる。第1に,授業内容やカリキュラムが意欲的な層のニーズに対応していない可能性である。特に初年次においては基礎教育が中心で,専門の面白さを実感しにくいことも関係しているかもしれない。第2に,そもそも入学直後の学業に対する期待が現実から乖離しており,新生活のスタートと相まって根拠のない「わくわく感」として認識されている可能性である。実際の学業では,勤勉な取り組み,地道な努力,苦手科目の克服なども要求されることから,7月時点では「学業満足」が低下したというより現実的な認識に落ち着き,大学に適応したと見ることもできる。これらのことを検証するためには,縦断調査を行い,専門教育に入った上位年次の「学業満足」と比較することも有効であろう。
 また,「学業満足」が低下しても,代わりに「交友満足」が上昇することによって大学への適応が維持されると見られることから,たとえば新入生のオリエンテーション,初年次の少人数演習,部活動といった取り組みを通じて新入生のソーシャル・ネットワークをサポートすることが重要と考えられる。

キーワード
大学生/学業遂行/大学生活充実度


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