発表

1A-021

生徒は他者の決定行列を正確に推測できるのか?

[責任発表者] 出口 拓彦:1
1:奈良教育大学

目 的
 囚人のジレンマの研究等では,自分と他者双方の利得が記載された利得行列が用いられることが多い(e.g. Axelrod, 1984)。本研究では,教育場面での逸脱行動に焦点を当てつつ,「人は他者の利得を,どの程度正確に推測することができるのか」という問題について考察した。

方 法
1. 測定した変数
1) 自分の決定行列 「(授業と無関係の)私語」および「内職」に関する決定行列(e.g. Deguchi, 2014)について,4 つの仮想場面(M11:自分も周囲も遵守/M12:自分は遵守,周囲は逸脱/M21:自分は逸脱,周囲は遵守/M22:自分も周囲も逸脱)を提示し,各場面に対する回答を「1.非常に不満」から「7.とても満足」で求めた。
2) 他者の決定行列(推測) まず,教室内で,自分の上下左右・斜めの位置に座っている生徒の質問紙番号の記載を求めた。次に,その中から,「この人の考えていることなら,私(あなた)は,正確にわかる」を思う人を1人選択してもらい,質問紙番号で回答を求めた。そして,選択した人が持つ(と回答者が推測する)決定行列(「私語」「内職」に関するもの)について,4 つの仮想場面(「あなたが選んだ人」「その周りの人たち」の組み合わせで,M11, M12, M21,M22の4 場面を作成)を提示し,各場面に対する回答を「1.非常に不満と考える」から「7.とても満足と考える」で求めた。
2. 手続き
 1つ中学校における12クラスを対象とし,質問紙調査を集団で実施した。各クラスの人数は40名弱であった。2019年1月に質問紙を送付し,2月に回収した。有効回答者数は395名(男性190名,女性196名,不明9名)であった。

結果
1. 指標の算出
1) 決定行列(推測) 「他者の決定行列(推測)」に関する4場面(M11からM22)についての評定値を指標とした。
2) 決定行列(実際) 回答者ごとに,「他者の決定行列(推測)」を測定する際に「選択された生徒」が回答した質問紙を対応させた。次に,その生徒(選択された生徒)の「自分の決定行列」を指標とした。
2. 決定行列(推測)と決定行列(実際)の差
 平均評定値の差を対応のあるt検定で比較した(Table 1)。その結果,「私語」については,M21のみに有意な差が示され,推測の方が満足度が高かった。一方,「内職」については,M12では推測の方が高く,M22では実際の方が高い傾向が見られた。
 すなわち,「自分」と「周囲の人たち」が異なった行動をとっている場面(M12とM21)においては,実際よりも高めに満足度を推測する傾向が示された。その一方で,両者が共に逸脱している場面(M22)においては,実際よりも低めに満足度を推測する傾向が見られた。
3. 決定行列(推測)と決定行列(実際)との関連
 両者の相関係数(積率および順位相関係数の双方)を算出した(Table 2)。その結果,「私語」「内職」ともに,.20未満の微弱な正の相関しか示されなかった。
4. 行動基準(推測)と決定行列(実際)の比較
 決定行列を出口(2018)の方法で行動基準に分類し,推測と実際のものとを比較した。その結果,「私語」については,「遵守:逸脱:同調:反対:中立」の順に,推測は「27.0, 15.4, 24.9, 0.6, 32.2」(単位は%,以下も同様),実際は「27.2, 15.2, 34.5, 0.0, 23.1」となった。一方,「内職」については,推測は「23.4, 19.9, 23.7, 1.7, 31.2」,実際は「23.0, 29.9, 25.2, 0.3, 21.7」となった。いずれも,「中立」は実際よりも多めに推測される傾向が示唆された。

考察
 決定行列(実際)と決定行列(推測)の評定値間には差があり,かつ,両者には微弱な相関しか示されなかったことから,他者の決定行列を正確に推測することは難しいと考えられる。これは,他者が持つ規範意識に対する推測が不精確である可能性を指摘した研究(出口, 2018)と同様であった。

引用文献 Axelrod, R. (1984). The Evolution of Cooperation. NY: Basic Books. (アクセルロッド, R. 松田裕之(訳)(1998). つきあい方の科学:バクテリアから国際関係まで ミネルヴァ書房)/Deguchi, T. (2014). A simulation of rule-breaking behavior in public places. Social Science Computer Review, 32, 439-452./出口拓彦 (2018). 教室における私語の頻度と規範意識・行動基準の関連:個人レベルおよび集団レベルの影響に着目して 実験社会心理学研究, 57, 93-104.

※本研究はJSPS科研費(JP18K03038)の助成を受けた。

キーワード
決定行列/逸脱行動/中学生


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