発表

1A-018

共同志向性と配偶者への恩恵提供に対する後悔
自分と配偶者による応答性知覚の調整効果

[責任発表者] 宮崎 弦太:1
1:東京女子大学

 親密な人間関係の中で自分の関係相手の幸福に関心を持ち,相手が必要とするときには必要なものやサポートを見返りを求めずに提供するという共同規範を遵守することは,個人のwell-beingを高めることが知られている(Le et al., 2017)。しかし,親密関係の中では,相手の幸福を考えて相手のためになることをすることが後悔をもたらしやすい状況もあると考えられる。特に,関係相手が自分の欲求に受容的に応じない危険性が高い(i.e., 配偶者からの応答性知覚が低い)場合,相手からの拒絶や搾取を経験する可能性を高める(e.g., Clark & Grote, 2003)ため,共同規範の遵守は後悔をもたらしやすいことが予想される。
 しかし,宮崎(2018)は,対人関係全般における共同規範の遵守傾向(共同志向性)と配偶者への恩恵提供に対する後悔との関連を検討し,上記の予想に反する結果を得ている。具体的には,共同志向性の強い人は,配偶者からの応答性知覚が低い場合に,恩恵提供に対する後悔を感じにくく,配偶者の応答性知覚が高い場合に後悔を感じやすかった。共同志向性の強い人に見られた後悔の抑制は,拒絶や搾取のリスクの高い状況で,共同的動機に基づく恩恵の提供を継続するための戦略的な反応である可能性が推測されている(宮崎, 2018)。
 親密関係の中で相手のためになる行動を行ったときに経験する後悔は,個人のwell-beingに悪影響を及ぼす(宮崎, 2018; Righetti & Visserman, 2017)。そのため,共同規範の遵守が個人のwell-beingに及ぼす影響を明らかにするうえで,共同規範が恩恵提供に対する後悔に及ぼす影響を調整する要因を詳細に検討することは重要である。本研究は,夫婦ペアデータを収集し,自分と配偶者の共同志向性がそれぞれの恩恵提供に対する後悔に及ぼす影響について,自分と配偶者による応答性知覚が調整するかどうかを検討する。
方法
 参加者と手続き 民間調査会社の調査モニターのうち,本人と配偶者がペアで調査に参加することが可能であると回答した30代と40代の男女515名をサンプリングし,205組の夫婦を分析対象とした(夫の平均年齢 = 40.70, SD = 6.58; 妻の平均年齢 = 38.81, SD = 5.84)。
 手続き 調査会社が運営するwebサイト上で調査を実施した。まず,共同志向性尺度に回答を求めた。次に,配偶者の応答性知覚,配偶者への恩恵提供経験に対する感情を尋ねた。
 測度 1)共同志向性:Clark et al.(1987)の尺度の邦訳版(宮崎・池上, 2016)を一部修正した尺度を使用した。宮崎(2018)と同様,共同志向性の他者志向的な側面のみを分析に用いた(7項目)。2)配偶者からの応答性知覚:Maisel & Gable(2009)の3項目を邦訳して用いた(宮崎, 2018)。3)配偶者への恩恵提供に対する後悔:宮崎(2018)に基づき,最近1ヶ月の間で配偶者のために何かをしたという経験について,現在の気持ちを尋ねた。後悔に関する2項目とその他の感情に関する4項目が含まれていた。いずれの尺度もα係数は.80以上であった。
結果と考察
 行為者−パートナー相互依存性調整モデル(Garcia et al., 2015)に基づき,夫婦両者の恩恵提供に対する後悔を目的変数,両者の共同志向性を説明変数,両者の配偶者からの応答性知覚を調整変数とする分析を実施した。夫婦間で調整効果に違いが確認され(χ2(4)= 12.98, p = .011),妻の後悔に対して,1)妻の共同志向性(行為者効果)×妻の応答性知覚(行為者調整効果)(b = .19, p = .041),2)妻の共同志向性(行為者効果)×夫の応答性知覚(パートナー調整効果)(b = -.25, p = .008),3)夫の共同志向性(パートナー効果)×妻の応答性知覚(行為者調整効果)(b = -.18, p = .021)の交互作用が有意であった。夫の後悔に対してはいずれの交互作用も有意でなかった。
 各交互作用について単純傾斜検定を行った。1)について,妻が夫の高い応答性を知覚している(+1SD)場合,妻の共同志向性が高いほど,夫への恩恵提供に対する妻の後悔が強まった(b = .32, p = .037)が,妻の応答性知覚が低い(-1SD)場合,その影響は認められなかった(b = -.19, p = .232)。これは,宮崎(2018)と類似したパターンであった。2)について,夫が妻の高い応答性を知覚している場合,妻の共同志向性が高いほど妻の後悔が弱まる傾向にあった(b = -.26, p = .088)が,夫の応答性知覚が低い場合,妻の共同志向性が高いほど妻の後悔が強まった(b = .39 p = .011)。3)について,妻が夫の高い応答性を知覚している場合,夫の共同志向性が高いほど,夫への恩恵提供に対する妻の後悔が弱まった(b = -.30, p = .023)が,妻の応答性知覚が低い(-1SD)場合,その影響は認められなかった(b = .18, p = .178)。
 以上より,対人関係全般で共同規範を遵守する傾向の強い人が,夫婦関係の中で配偶者のためになることを行うことによって後悔を経験しやすい状況があることが示された。夫が自分を応答的でないと知覚している場合,自分は相手の幸福のために恩恵を提供しているにもかかわらず,自分の向社会的な意図が夫から認知されていないと感じる場面が多くなり,その結果,後悔を感じやすい可能性がある。一方,自分が夫を応答的であると知覚している場合に,相手の幸福のために恩恵を提供することが後悔をもたらしやすいことについては,安心して恩恵提供を多く行った結果,自分が効果的でない恩恵提供をしてしまう可能性が高まり,そのことによって後悔を感じやすくなったのかもしれない。これらの結果の解釈や再現性を含めさらなる検討が必要である。
付記 本研究は,科学研究費(若手研究 課題番号:18K13277)の助成を受けた。

キーワード
共同志向性/後悔/配偶者の応答性知覚


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