発表

1A-012

東日本大震災後における抑うつ慢性群および遅発群の予測因子に関する疫学研究

[責任発表者] 森島 遼:1
[連名発表者・登壇者] 安藤 俊太郎#:1,2, 荒木 剛#:1, 宇佐美 慧:3, 金原 明子#:1, 田中 慎太郎#:2, 笠井 清登#:1
1:東京大学, 2:東京都医学総合研究所, 3:東京大学

 目的
 東日本大震災をはじめとした大規模災害は,こころの健康に長期的な影響を与える(e.g., Ando et al., 2017)。抑うつは,災害後に生じるこころの不健康状態の一つである。災害後に抑うつで長期的に苦しむ人々がいればそうでない人々もいるものの,抑うつの長期経過(慢性群,遅発群など)の予測因子に関する知見は不足している。抑うつの長期経過の予測因子の知見は,より効果的・効率的な災害後の精神保健活動の指針となり得る。本研究は,東日本大震災後の抑うつの慢性群および遅発群の予測因子を調べた。
 方法
 宮城県東松島市で毎年一回行われる特定健診の19歳以上の参加者データ3年間分を使用した。東松島市は,東日本の沿岸部に位置する,被災度の高い地域である。本研究は,東京大学医学部[審査番号3583-(2)]および東京都医学総合研究所[審査番号14-21]の倫理委員会の承認を得て実施している。2012年,2013年,2014年に宮城県東松島市の特定健診で質問紙調査を行った。
 質問紙では,抑うつ,年齢,性別,家屋損壊度,こころの健康についての相談希望,同居人有無,こころの健康について相談できる人の有無,居住状況,勤務状況などを聴取した。抑うつの評価は,Kessler 6 (K6)を用いた。K6では,過去30日間の抑うつ症状(例:神経過敏に感じましたか)を6項目で「全くない」(0点)から「いつも」(4点)の5件法で評価する。合計8点以上を“抑うつあり”,と定義した。
 抑うつ長期経過の分類後,慢性群および遅発群の予測因子を調べた。解析は,t検定とカイ二乗検定を実施後,多変量ロジスティック回帰分析を行った。多変量ロジスティック回帰分析では,年齢と性別に加え,t検定とカイ二乗検定で有意だった変数を投入した。
 結果
 研究参加者(N = 1268)のうち,慢性群は3.6%,遅発群は6.2%であった(表1,2)。2012年に聴取した抑うつが高いことと,被災による家屋損壊度が高いことは,慢性群のリスク因子であった(表1)。2012年に聴取した抑うつが高いこと,2014年に聴取した無職状態と仮設住宅在住状態は,遅発群のリスク因子であった(表2)。
 
 本研究の結果は“The course of chronic and delayed onset of mental illness and the risk for suicidal ideation after the Great East Japan Earthquake of 2011: A community-based longitudinal study.” [doi: 10.1016/j.psychres.2018.12.151.]に収録されている。仮設住宅在住と抑うつの遅発の関係の解釈(考察部分)について,初出の論文とは異なる視点を新たに加えた。これにより,今後の研究への示唆が補足されるとともに,社会課題としての重要性を明らかにした。開示すべき利益相反はない。

 考察
 抑うつの慢性群および遅発群は,災害1年後の抑うつに加え,家屋や雇用の問題によって予測された。被災地の長期的な精神保健活動において心理的・環境的(就労・住居)な困難のある方への支援の重要性が示唆された。
 特に仮設住宅在住者は,抑うつの遅発リスクが約6倍であった。東日本大震災から6年後時点の仮設住宅在住者は約9万人であると報告されている(復興庁, 2017)。仮設住宅そのものは被災者にとって不可欠な資源であるため,仮設住宅により生じる問題への介入が抑うつ予防に有益な可能性がある。今後は,仮設住宅によって生じる問題と抑うつの関係を調べる必要がある。
 引用文献
Ando, S., Kuwabara, H., Araki, T., Kanehara, A., Tanaka, S., Morishima, R., Kondo, S. & Kasai, K. (2017). Mental Health Problems in a Community After the Great East Japan Earthquake in 2011: A Systematic Review. Harvard Review of Psychiatry, 25, 15-28.
復興庁. (2017). 復興の現状と取組. http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-1/20170310_genjou.pdf (accessed Oct 4, 2018).

キーワード
東日本大震災/抑うつ/予測因子


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