発表

3C-004

外向的に振る舞えば,自己認識が外向的に変わる?
—Tice(1992)の追試的検討—

[責任発表者] 上田 皐介:1
[連名発表者・登壇者] 加藤 弘通#:2, 山形 伸二:1
1:名古屋大学, 2:北海道大学

問題と目的 自己呈示の内在化とは,自己呈示した方向に自己認識や行動が変化する現象である。具体的には,外向的に振る舞ったときに,自分のことを外向的に捉えるようになったり,行動が外向的になるといった現象である。Tice(1992)は,自己呈示の内在化が一貫して公的状況において生じ,私的状況では生じないことを3つの実験を通して主張した。公的状況とは,他者がおり自身の個人情報をさらしている状況であり,私的状況とは,他者がその場におらず自身の個人情報もさらしていない状況である。また,現象の説明原理の1つとして,「認知的不協和の低減」を提案している。Tice(1992)では,参加者は実際の性格とは無関係に,与えられた性格であるかのように振る舞うが,参加者自身の性格と異なる自己呈示をしたときに認知的不協和が生じる。この認知的不協和を解消するために,自分に対する態度(i.e., 外向性の自己評定)が変化するという説明であり,認知的不協和の低減は公的状況で起こりやすい(Baumeister & Tice, 1984)こととも整合している。
 しかし,Tice(1992)では自己呈示前に参加者の外向性を測定していない。自己呈示の内在化は,自己呈示前の自己評価や行動が,自己呈示よって,その自己呈示の内容の方向に変化する,いわば変化の概念である。しかし,Tice(1992)では,自己呈示前に外向性の自己評定をさせず,自己呈示後に,外向性の自己評定をさせるにとどまっている。これは,変化の概念を扱う上で大きな方法論的問題だろう。
 そこで,本研究では上記の方法論的問題を克服した上で,Tice(1992)のstudy2の追試的研究を行う。Tice(1992)の結果が再現されるかどうかを検討するのが本研究の目的である。方 法カバーストーリー Tice(1992)にならい,「他者の性格を見抜くことができるかどうか」という実験を行っており,参加者はそのための刺激人物になるというカバーストーリーを用いた。加えて,刺激人物には「誠実に振る舞う場合」など複数のパターンがあり,ランダムに割り振っていると伝えた。実際には,外向的か内向的のどちらかであるが,参加者に外向性を測定していると思わせないためにこの教示をした。刺激人物として自己紹介をしてもらうと伝えた。また,自己評定は自己紹介の前後で行うと教示した。
実験参加者と条件 北海道内の大学生・大学院生67名(男性37名, Mage=21.06, SD=1.08)を対象とした。男女比が極力等しくなるよう,状況(公的・私的)×自己紹介の種類(外向的・内向的)の4つの条件に分けた。
質問項目 和田(1996)のBig Five尺度の下位因子である外向性12項目を使用した。因子負荷量を加味し,6項目ずつ半分に分けて自己紹介場面の前後で使用した。回答形式は,「まったく当てはまらない」(1点)~「非常にあてはまる」(7点)の7件法である。外向性を測定していることが,参加者に伝わらな
いよう,Big Five尺度の他の下位因子の項目を混ぜて計15項目で使用した。2つの項目群に関して,実施順序をカウンターバランスした。
結 果 Big Five尺度の外向性の得点化は,各群,十分な信頼性を示しため6項目の平均値を算出し,外向性の指標とした。各群で,自己紹介の前後で外向性に変化が生じたかを検討するため,外向性の得点を従属変数とし,順番(2)×状況(2)×自己呈示の種類(2)の,順番の1要因を被験者内要因とする3要因混合計画の分散分析を行った。その結果,どの要因の主効果も有意でなく,交互作用効果も有意でなかった。すなわち,本研究では,どの群においても自己紹介前後で外向性に変化は見られず,自己呈示の内在化は生じていなかった。考 察
 本研究では,Tice(1992)の結果は再現されなかった。これについて3つの可能性が考えられる。1つ目は,Tice(1992)の方法論上の問題を克服し結果が再現されなかった可能性である。2つ目はTice(1992)と本研究の操作は多少異なるため,本研究の実験操作がTice(1992)に比べ効力がなかったことで結果が異なった可能性である。3つ目は,Tice(1992)と本研究の参加者の文化の違いによるという可能性である。Tice(1992)はアメリカ人を,本研究は日本人を対象としている。自己呈示後の認知的不協和の生起過程に文化差があったために結果が異なった可能性があるため,以下で説明を試みる。Kashima et al.(2004)によると西欧人は,日本人に比べ,自己を状況を越えて一貫しているものとみなす。また,状況によって変わらない自己を明確で,本当の自分であると感じる。そのためTice(1992)の公的状況の参加者にとって外向的に振る舞った自分と,その後の外向性の自己評定時に想起する自分は,一貫していなければならないが,一貫していないので認知的不協和が生じる。その不協和を低減させるために回答が外向的になるため,自己呈示の内在化が生じたと考えられる。一方,私的状況の場合,匿名で刺激人物としての振舞いが自分に帰属されることはない。この場合,外向的に振る舞ったことと,外向性の自己評定時に想起する自分に,関連はないため認知的不協和は生じず,自己呈示の内在化は生じない。一方,日本人は西欧人に比べ,自己を状況依存的に捉えており,状況に合わせている方が本当の自分だと感じている(Kashima et al., 2004)。よって,本研究の公的状況の参加者は,外向的に自己紹介をするよう教示を受け外向的に振る舞った自分と,自己紹介後の自己評定時に想起する自分を切り離して考えるだろう。よって,認知的不協和は生じず,自己呈示の内在化も生じない。一方,私的状況の参加者は,Tice(1992)の私的状況同様の理由か本研究の公的状況と同様の理由で,認知的不協和は生じず,自己呈示の内在化も生じない。3つの可能性を述べたが,どれが正しいかを検討するために日米での後続の研究が待たれる。

キーワード
自己呈示の内在化/追試研究/認知的不協和理論


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