発表

3B-004

アイデンティティと精神的健康の縦断的関連
経験サンプリング法を用いた検討

[責任発表者] 畑野 快:1
[連名発表者・登壇者] 杉村 和美:2
1:大阪府立大学, 2:広島大学

 【問題と目的】
 青年期・成人期初期における発達課題はアイデンティティ形成であり(Arnett, 2016; Erikson, 1968),その形成の在り方は精神的健康と強く関連する(レビューとして畑野,2019)。これまで,アイデンティティと精神的健康の関連についての研究では,全体的なアイデンティティ(i.e., 様々な領域の平均)に着目し,年に1度の縦断調査を行い,両者の相関関係を検討する手法が主に用いられてきた(e.g., Meeus et al., 2012)。しかしながら,近年では(1)領域固有のアイデンティティに着目し,(2)経験サンプリングを用いて日常的なアイデンティティ,精神的健康を測定し,(3)両者の関係をマルチレベルで検討することで,両者の関係のメカニズムに踏み込んだ研究がなされている(Becht et al., 2016, 2018)。以上を踏まえ,本研究では,これまで検討されてこなかったアイデンティティの将来領域(future domain; Luyckx et al., 2008)に着目し,それを測定するための項目の開発,さらには経験サンプリング法によってデータを収集し,日常的アイデンティティと精神的健康の関連をbetween-person・within-personのマルチレベル分析によって検討することを目的とする。
 【方法】
調査対象者及び調査時期 インターネットリサーチ会社に委託し,5日間連続で調査を実施した。分析対象者は3日以上回答した18–30歳の若者720名(女性54.4%)であった。調査時期は2019年3月であった。
調査項目 将来に関するアイデンティティの日常的感覚を測定するためにDimensions of Identity Development Scale(DIDS; Luyckx et al., 2008)を参考とし,その下位次元(i.e., 5次元)に沿って項目を1項目作成した。それぞれ,“今日,自分の将来についてはっきりとした見通しを思い描いた(コミットメント)”,“今日,自分の将来の計画の内容に安心感を覚えた(コミットメントの同一視)”,“今日,他にもっと良い生き方がないか考えた(広い探求)”,“今日,人生の目的が本当に自分に合っているか考え直した(深い探求)”,“今日,自分の将来の計画に不安を覚えた(反芻的探求)”の合計5項目であった(5件法)。また,精神的健康に関して,主観的幸福感(Lyubomirsky & Lepper, 1999)(“今日,幸せな気持ちだった”),不安(Goodman, 1997)(“今日,不安を感じた”)の日常的感覚を測定する項目をそれぞれ1項目作成した(各5件法)。なお,それぞれの項目はバックトランスレーション法によって開発された。
分析手続き まず開発した1項目版DIDSの因子構造の妥当性を確認するため,確認的因子分析を行った。次に,アイデンティティと精神的健康の関係をbetween-person・within-personのレベルに分けて両者の関係を明らかにするため,Random Intercept Cross Lagged Model(RICLPM; Hamaker et al., 2015)を用いた。分析にはMplus 7.2(Muthén & Muthén, 1982–2012)を用いた。
 【結果と考察】
因子的妥当性の検討 開発した1項目版DIDSの因子構造の妥当性を検討するために,確認的因子分析を行った。5次元モデルによる分析は不適解であったことから,理論的に考え得る3次元モデル(i.e., コミットメント,能動的探求,反芻的探求)を仮定して分析を行ったところ,モデルの適合度は許容の範囲内であった(CFI = .90, RMSEA = .080)。加えて,性別に関する測定分散を確認したところ,スカラー普遍のレベルまで確認された(CFI=.89-.90, RMSEA=.06)。
記述統計 使用した項目,項目群の全体的な平均値の変化を確認するために,各項目群,項目ごとに潜在成長曲線モデルを用いた(ロバスト最尤法)。モデルの適合度はCFI = .99 – 1.00, RMSEA = .00-.05であり,十分な値であった。使用した全ての項目群,項目の切片の平均値は有意であること,コミットメント,反芻的探求に関しては傾きが有意であることが確認された。
RICLPMによる検討 アイデンティティと精神的健康の縦断的関連を検討するため,RICLPMを行った。制約を課す・課さないモデルを複数仮定して分析を行い,最も適合度が良かったモデル(i.e., cross-paths, correlated changeに制約を課したモデル)を採用した(CFI= 1.00, RMSEA = .01)。Figure 1から,between-personのレベルにおいて,コミットメントは幸福感と正の関連を,能動的探求,反芻的探求は幸福感と負の関連を示していた。within-personのレベルにおいて能動的探求は幸福感に,反芻的探求は不安にそれぞれ正の影響を及ぼしていた。以上の結果は,将来についての能動的探求を積極的に行う者は幸福感の高まりを予測する一方,反芻的な探求の増加は不安の高まりを予測する可能性を示唆していた。
 【引用文献(一部)】
畑野快 (2019). 青年期のアイデンティティ. 児童心理学の進歩, 58, 125-155.

キーワード
アイデンティティ/精神的健康/経験サンプリング


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