発表

2D-005

サイコパシーにおける道徳的態度は学習能力と関係するか?

[責任発表者] 大庭 丈幸:1
[連名発表者・登壇者] 片平 健太郎:1, 大平 英樹:1
1:名古屋大学

 目 的
 サイコパシーは冷淡・良心の呵責の欠如・衝動性などを特徴とするパーソナリティ特性である (Cleckley, 1941)。その特徴から,サイコパシーと道徳性について調べた研究が多くあり,サイコパシー傾向が高いほど道徳的態度が低くなると報告されている (Aharoni, et al., 2011; Blair, 1995; Glenn, et al., 2009)。Blair (2017) は,このようなサイコパシーにおける道徳性の低さは学習の結果ではないかと論じている。サイコパシー傾向の高い者は不快な結果からの学習が成立しにくく (Lykken, 1957; Newman & Kosson, 1986),そのため道徳的に悪い行動をして不快な結果 (例: 他者からの罰, 被害者の苦痛な表情等) がもたらされても,学習が成立しにくいと主張している。しかし,実際にサイコパシーにおける道徳性の低さが学習能力に起因するのかどうかを調べた研究は見当たらない。そこで本研究では,サイコパシーの道徳性における特徴が学習能力によって説明されるのかを検討する。学習能力については,強化学習モデルのパラメータを用いて学習の個人差を推定した。具体的には,サイコパシー傾向が高くなるほど,道徳的態度が低くなり,このような関係性が学習パラメータによって媒介されるという仮説を検証した。
 方 法
実験参加者 大学生および大学院生58名が実験に参加した。実験の不備による3名と質問紙への回答不備による1名のデータを除外したため,分析には54名のデータを用いた(女性31名; 平均年齢19.57歳,SD = 1.84)。
使用尺度 日本語版一次性・二次性サイコパシー尺度(杉浦・佐藤2005) と日本版 STAI の特性不安尺度 (清水・今栄, 1981) を用いて,サイコパシー傾向および不安傾向を測定した。道徳的態度については日本語版道徳基盤尺度 (金井, 2013) を用いた。
実験課題 Guitart-Masip, et al. (2012) を参考に学習課題を作成した。学習課題では4つのフラクタル画像の内1つが呈示され,実験参加者はフラクタル画像が呈示されている間にキーボードのスペースキーを押すか,押さないかを判断してもらった。行動の結果によってフィードバックが呈示された。結果の随伴性は,80%の確率でボタン押しによって報酬 (+¥10) が得られるもの,ボタンを押さないことで報酬を得られるもの,ボタン押しによって罰 (-¥10) が与えられるもの,ボタンを押さないことによって罰が与えられるものの4つであり,20%の確率で¥0となった。
強化学習モデル 強化学習モデルを用いて学習過程の潜在変数を推定した。強化学習モデルには,価値の更新スピードを決める学習率と選択のランダムネスを決める逆温度,ボタン押し傾向を表すバイアスパラメータなどが含まれていた。さらに学習率については報酬と罰および予測誤差の正負によって四つに分かれた。
 結 果
サイコパシーと道徳性 まず各性格特性と道徳的態度についての相関を検討したが,個々の性格特性と道徳的態度の間に有意な相関は見られなかった (ps >.120)。次に階層的重回帰分析を行い,それぞれの交互作用を検討した。その結果,道徳的態度の下位尺度である「傷つけないこと: (H)」,「内集団への忠誠: (I)」,「権威への敬意: (A)」において一次性サイコパシーと不安の交互作用項が有意であった(H:ΔR2 = .090, p = .024; I:ΔR2 = .138, p = .004; A:ΔR2 = .134, p = .005)。単純傾斜分析の結果,不安が高い群ではサイコパシー傾向が高くなると道徳的態度が低くなるが (H: β = -0.575, p = .001; I: β = -0.557, p = .0167; A: β = -0.653, p = .005),不安の低い群ではこのような効果は見られなかった (H: β = 0.021, p = .893; I: β = 0.193, p =.213; A: β = 0.048, p = .748)。
媒介調整分析 高不安群におけるサイコパシー傾向と道徳的態度の関係が学習パラメータによって説明されるのかについて媒介調整分析を行った。その結果,「傷つけないこと」の下位尺度について,罰に対する学習率による媒介が確認された (Figure 1.)。間接効果についてベイズ推定を行ったところ,高不安群では平均-0.198 (95% CI = [-0.475, -0.007]) であり,低不安群では平均-0.005 (95% CI = [-0.097, 0. 073]) であった。つまり,高不安のサイコパシーでは罰の学習率が増加しており,罰の学習率が高くなるほど道徳的態度が低くなっていた。
 考 察
 実験の結果,サイコパシーと道徳的態度は部分的に関連しており,その関係性は学習率によって説明された。不安の高いサイコパシーは罰への感受性が高いことが報告されており (Newman, et al., 2005),そのため罰の学習率が高かったと考えられる。また罰の学習が早く成立するということは罰を回避しようとする傾向が強くなり,他者を傷つけてでも不快な結果を回避しようという態度に結びついたのではないかと考えられる。

キーワード
サイコパシー/道徳的態度/強化学習モデル


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