発表

2D-003

審美的価値観と絵画のモザイク処理との関連に対する一考察

[責任発表者] 宮下 達哉:1
[連名発表者・登壇者] 木村 敦:2, 岡 隆:1
1:日本大学, 2:日本大学

目 的
 絵画の美的評価を規定する要因を検討した先行研究(宮下・木村・岡,2016a, 2016b, 2017, 2018)は,Spranger(1921)の審美的価値観(aesthetic dimension of value)が絵画の美的評価を高めることを示している。審美的価値観は美を重視する価値観であり,この価値観を重視する者は美しいかどうかという判断基準を自身の行動において重きを置く。先行研究(宮下他,2016a, 2016b, 2017, 2018)は,審美的価値観の高い者は低い者に比べて,絵画の美的評価が高いことを一貫して示している。また,審美的価値観の高い者は,絵画の外部情報(i.e., 絵画のタイトル,作者名,他者評価)に左右されず作品評価を行っているため(宮下他,2018),解釈によって美的評価を行っていると考えられている(宮下他,2016a,2018)。
 これらを踏まえると,審美的価値観を重視する者は,一見して絵画と判断し難いものであっても,そこに描かれているものを解釈によって評価すると考えられる。そこで本研究は,審美的価値観は絵画と判断し難いものに対しても,それに対する美的評価と関連するか検討することを目的とする。具体的には,筒井・新堀・近江(2009)で用いられた絵画にモザイク処理を行ったものを,絵画と判断し難い刺激として用いる。
方 法
 実験計画 2(審美的価値観:高群,低群)×2(画像:オリジナル,モザイク)の2要因混合計画であった。
 実験参加者 大学生96名(男性60名,女性36名,平均年齢20.07歳,SD = 0.92歳)であった。
 刺激 筒井他(2009)の研究で使用された風景画をオリジナル画像とし,それにモザイク処理を行ったものをモザイク画像とした計2点を使用した。具体的には,モザイク画像はオリジナル画像に対し,40平方ピクセルの正方形に分割処理を行ったものであった。
 質問紙 絵画評定は宮下他(2016a, 2016b, 2017, 2018)と同様に,4つの形容詞対尺度(i.e., 美しさ,快さ,良さ,好ましさ)に9件法で回答させるものであった。審美的価値観の測定は,酒井・山口・久野(1998)の価値志向性尺度を用いた。本尺度の構成は全72項目の内,「審美」を測定する項目は12項目であった。回答方法は5件法であった。
 手続き 一斉調査形式で行った。絵画を大型スクリーンに1枚ずつ呈示し,質問紙の評定尺度へ回答を求めた。絵画評定を終えた後,続けて価値志向性尺度への回答を求めた。
結 果
 各絵画に対する美的評価を測定した4項目(美しさ,快さ,良さ,好ましさ)を合計した美的評価得点を算出した。続けて,価値志向性尺度の「審美」の合計得点に基づいて中央値で群分けを行い,中央値より合計得点が高かった群を審美的価値観の高群,一方,低かった群を低群とした。
 最後に,審美的価値観と画像を独立変数,美的評価を従属変数として,2要因混合計画の分散分析を行った。その結果,審美的価値観及び画像の主効果が認められた(順に,F (1,94) = 7.39, p = .008; F (1,94) = 292.89, p < .001)。交互作用が認められたことから(F (1,94) = 4.25, p = .04),単純主効果の検定を行った(Figure1)。その結果,高群及び低群における画像の単純主効果が有意であり(順に,F (1,94) = 113.27, p <.001; F (1,94) = 183.87, p <.001),両群ともモザイク画像よりもオリジナル画像の方の美的評価が高かった。また,モザイク画像における審美的価値観の単純主効果も有意であり(F (1,94) = 9.76, p =.002),低群よりも高群の方が美的評価が高かった。オリジナル画像における審美的価値観の単純主効果は有意ではなかった(F (1,94) = 0.16, n.s.)。
考 察
 本研究の目的は,審美的価値観は絵画と判断し難いものに対する美的評価と関連するか検討することであった。
 分散分析の結果,審美的価値観の高い者は低い者に比べ,モザイク処理を行った絵画に対する美的評価が高いことが示された。この結果より,審美的価値観の高い者は,モザイク処理を行った一見して絵画と判断し難いものであっても,そこから概念的な意味を見出そうとしたと考えられる。これは,解釈に基づく美的評価という先行研究の知見(宮下他,2016a,2018)を支持するものであり,審美的価値観の高い者は描かれたものから主観的な価値を見出していると推察される。
 一方,審美的価値観とオリジナル画像に対する美的評価との関連は示されなかった。審美的価値観と絵画に対する美的評価との関連が一貫して示されてきた点を踏まえると(e.g., 宮下他,2016a, 2018),刺激の呈示順序が影響した可能性が考えられる。従って,実験手続きの観点から今後の課題として精緻に検討する必要がある。

キーワード
絵画/審美的価値観/モザイク処理


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