発表

2B-006

大学生の仮想的有能感について
精神的ゆとり,ゆるし傾向,成功恐怖,セルフ・ハンディキャッピングとの関連

[責任発表者] 塚下 眞子:1
[連名発表者・登壇者] 谷井 淳一:2
1:二葉栄養専門学校, 2:ルーテル学院大学

 【問題と目的】
 近年,教育現場・臨床現場では,いじめや社会的迷惑行為,青少年犯罪,教育困難校等が青少年問題のキーワードとして挙げられる。速水(2006)は,現代青少年に共通する傾向を仮想的有能感(assumed competence:AC)と定義した。ACとは「自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚」と定義されるものである。これまでの研究からACの高い個人が必ずしも精神的に健康とはいえないことが示唆されてきた。そこで本研究では, 精神的健康の及ぼす影響のさらなる検討を行う。本研究ではゆとり世代とよばれている年齢層の大学生が自己の精神的健康をどのように捉えているのか,また他者との関係の中での精神的健康に着目する。加えて個人差の視点を目的とし成功恐怖を取り上げ,他者に翻弄されている中で自己と他者比較を繰り返していながら,どのような行動様式をもつのかをも検討する。先行研究では性差も存在しているため,性差も検討する。

 【方法】
(1)調査対象
 2018年7月から8月に都内の私立大学において質問紙調査を実施した。分析対象者は記入漏れ等を除いた10代から20代までのゆとりとよばれる世代134名であった。
(男性53名,M=20.0,SD=2.05 女性81名,M=20.1,SD=1.70)
(2)調査内容
(a)仮想的有能感尺度(ACS-2);Hayamizu et al(2004)による5件法の尺度で1因子構造の11項目からなる。
(b)ゆとりの構造;古川・山下・八木(1993)による5件法で50項目のうち,「有能性」「満足安定性」「自由奔放性」の15項目を抽出し使用した。
(c)ゆるし傾向性尺度;石川・濱口(2007)による4件法で23項目からなる尺度で,社会的ゆとり,対人的ゆとり,自由奔放性の3つの下位尺度からなる。
(d)成功恐怖1(FS)測定尺度;堀野(1991)の5件法で18項目からなる尺度で,対人的配慮,成功への否定的感情,優越欲求の少なさの3つの下位尺度からなる。
(e)セルフ・ハンディキャッピング尺度;沼崎・小口(1990)の5件法で23項目からなる尺度で,準備万端性,気分転換性,完璧性,平常心のなさの4つの下位尺度からなる。

 【結果】
 尺度間の相関関係を検討するため,男女別で相関係数を算出した。その結果,いくつかの尺度間において性別による違いがみられた。性別による違いが存在したことから,男女別にACを目的変数とする重回帰分析を行った。その結果,男女で影響力に違いがあった(表1)。すなわち,男性は対人的ゆとりが負の影響,自由奔放性が正の影響,対人的配慮が正の影響,完璧性が正の影響を与えていたのに対し,女性は他者へのゆるし傾向が負の影響,対人的配慮が正の影響,完璧性が正の影響を与えていた。

 【考察】
 以上の結果から,ACの在り方には男性と女性で違いがあることが言える。特徴的な結果として女性のみ他者へのゆるし傾向性の低さがみられた。この現象は,Marques,Yzerbyt,& Leyens(1998)が提唱した内集団の劣った・逸脱した成員が極めて低く評価され内集団から心理的に切り離され,優れた成員は内集団の誇りとして高く評価される黒い羊効果(black sheep effect)と近い現象だと考える。
 速水ら(2005)は,ACは男性に優位な概念であると述べ,本研究のACとの相関関係や重回帰分析の結果からも男性の方が高い値がみられたが,女性においても有意な値がみられた。本研究の限界には,単一の大学生を対象としたことや男女の調査協力者の人数には差があったことが挙げられるが,この調査協力者のもとでも有意な差があったことからACと黒い羊効果(black sheep effect)との関連についての深い研究が今後望まれるだろう。

 【文献】
速水敏彦(2006). 他人を見下す若者たち 講談社現代新書 講談社.
速水敏彦(2012). 仮想的有能感の心理学 -他人を見下す若者を検証する- 北大路書房,43-55.
速水敏彦・木野和代・高木邦子(2004). 仮想的有能感の構成
 概念妥当性の検討 名古屋大学大学院教育発達科学研究紀要(心理発達科学),51,1-7.

キーワード
仮想的有能感(AC)/ACS-2/大学生


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