発表

1D-005

生活史戦略の各領域は異なるパートナー暴力を予測する

[責任発表者] 喜入 暁:1
1:大阪経済法科大学

目 的
 パートナーに対する暴力(intimate partner violence: IPV)を促進する多くの個人要因が明らかにされてきた(Vagi et al., 2013)。しかし,そのような多くの個人要因の統合や,通底する一般的な要因の解明はいまだ不十分である。本研究では,進化心理学的理論である生活史理論による生活史戦略に基づき,パートナー暴力との関連を検証する。
 生活史戦略は本来生物の種間差を説明し,早い生活史戦略と遅い生活史戦略を両極とした一次元軸で表現される。この軸上のいずれに位置するのかによって,各生物が持つ生態エネルギーと物理的資源の割り当てが異なる。一方の極である早い生活史戦略は,遺伝的基盤に加え将来の予測ができない不安定な環境で形成され,生態エネルギーや物理的資源をsomatic effortよりもreproductive effortに,またreproductive effortにおいてもparental effortよりもmating effortに多く割く。対極にある遅い生活史戦略は,将来の予測が可能で安定的な環境で形成され,資源などをsomatic effortやparental effortにより多く割く。
 このような生活史理論を,種内差,特にヒトの個人差の基盤として想定するというアプローチがとられている(Figueredo et al., 2006)。すなわち,ヒトは一般的には遅い生活史戦略の傾向を示すが,相対的に早い生活史戦略をとる個体もある。また,進化的観点から,資源の割り当ては様々な行動・心理メカニズムに影響し,したがって生活史戦略をこれらに通底するより一般的な戦略として想定することができ,例えば攻撃行動やIPVは早い生活史戦略による行動である可能性が指摘されている(Figueredo et al., 2018)。
ただし,生活史戦略が広い領域をカバーする一方で,その下位領域として想定される行動・心理パターンがある。具体的には,「明察性」「両親との関係」「親族との関係」「友人との関係」「パートナーアタッチメント」「利他性」「宗教性」の7領域である。そこで,本研究ではパートナー暴力の予測因としての生活史戦略の下位領域に着目し,各々の領域と複数のIPV形態との関連を検証する。
方 法
 参加者 株式会社クロス・マーケティングに登録されたモニターのうち,現在特定の異性とパートナー関係にある18-69歳の男女各1000名を対象とした。
 測定 生活史戦略をK-SF-42を用いて測定した。この尺度は42項目からなり,生活史戦略の7領域がそれぞれ6項目で構成されている。原版の方法に従い,領域によって7件法または4件法で測定した。各領域で得点範囲が異なるため,領域ごとの平均得点をそれぞれ標準化し,標準化された各領域の得点の平均を尺度得点とした。IPVの測定にはIPV尺度を使用した(Kiire, 2017)。この尺度はIPVの7形態(直接暴力,間接暴力,支配・監視,言語的暴力,性的暴力,経済的暴力,ストーキング)を各3項目で測定する。また,統制変数としてBig FiveパーソナリティをTIPI-J(小塩他,2012)を用いて測定し,平均得点を尺度得点とした。
 手続き 株式会社クロス・マーケティングに調査を依頼した。本研究では用いない尺度も併せて181項目を使用した。
結 果
 生活史戦略の7領域を説明変数,IPVの7形態を目的変数,Big Fiveパーソナリティ,年齢,性別を統制変数とし,SEMを行った。なお,目的変数の分布が大きく偏っていたため,ポワソン分布を仮定した。分析の結果をTable 1に示した。まず,パートナーアタッチメントは間接的暴力,言語的暴力,性的暴力,経済的暴力,ストーキングを説明し(b*s =-.21--.39),両親との関係は直接的暴力,間接的暴力,支配・監視,言語的暴力を説明した(b*s =-.22--.40)。次に,明察性が経済的暴力を(b* =-.31),利他性が間接的暴力と言語的暴力を説明した(順に,b*s =-.20, -.36)。さらに,宗教性が直接暴力,支配・監視,経済的暴力,ストーキングを説明したが,これらは「宗教性が高いほどIPVをする可能性が高い」という,これまでの生活史戦略に関する知見とは逆の関連が示された(b*s =-.28--.46)。

Table 1. 生活史戦略の各領域と各IPV形態との関連
  直接 間接 支配・監視 言語 性 経済 ストーキング
明察 -.24 -.04 .11 -.13 -.09 -.31 -.16
両親 -.40 -.20 -.20 -.40 -.17 -.26 -.32
親族 -.04 -.22 -.26 .18 .14 .09 .32
友人 .12 .12 .19 .03 -.07 .03 -.10
利他 -.04 -.06 -.10 -.36 -.07 -.19 .00
恋人 -.16 -.31 -.17 -.39 -.21 -.32 -.32
宗教 .28 .12 .27 .19 .19 .46 .38
注)値は標準偏回帰係数。統制変数は省略。
考 察
 本研究では生活史戦略の各領域と様々なIPVとの関連を検証した。主にパートナーアタッチメントと両親との関係性がIPVと負の関連を示し,これらは早い生活史戦略的であるほどIPVを行う可能性が高いことを示す。一方で宗教性はIPVと正の関連を示した。これは遅い生活史戦略的であるほどIPVを行う可能性が高いことを示し,先行研究と対立する。今後,国内外における宗教性とIPVとの関連を詳細に検証する必要があるかもしれない。
主要な引用文献
Figueredo, A. J., Jacobs, W. J., Gladden, P. R., Bianchi, J., Patch, E. A., Kavanagh, P. S., ... & Li, N. P. (2018). Intimate partner violence, interpersonal aggression, and life history strategy. Evolutionary Behavioral Sciences, 12, 1-31.
※本研究は公益財団法人日工組社会安全研究財団の2017年度若手研究助成を受けて実施された。

キーワード
パートナー暴力/生活史理論/K-SF-42


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