発表

1D-003

「自分を思いやる」文章の特徴の検討
セルフコンパッションの筆記法における自由記述への軽量テキスト分析

[責任発表者] 宮川 裕基:1
[連名発表者・登壇者] 谷口 淳一:2, 水野 邦夫:2
1:追手門学院大学, 2:帝塚山大学

目 的
 近年, 苦しみを抱えた際に自己を思いやることを意味するセルフコンパッション (SC) が心理的適応に寄与するという知見が蓄積されている (Neff et al., 2018; MacBeth & Gumley, 2012; Zessin et al., 2015)。このため,SCを高める長期的な心理臨床的プログラム(Gilbert, 2010; Neff & Germer, 2013) や短期的な実験操作 (Breines & Chen, 2012; Zhang & Chen, 2016) が開発されている。そのような介入法の1つとして,苦しみを抱える自己に対して思いやりに満ちた文章を記述するといった筆記法 (SC筆記介入) がある。Zhang & Chen (2016) では, 自尊心を高める文章を記述 (自尊心筆記介入) した参加者よりも, SC筆記介入群の参加者が, 介入後のSCが高いことを報告している。このように, SCの介入研究は効果測定が主流であった。その一方, 参加者がその介入において, どのような体験をしているのかという点は十分な検討がされていない。特に, SC筆記介入において, 参加者が実際にSCの概念 (自分への優しさ, 人としての共通体験, マインドフルネス; Neff, 2003) を反映した内容を記述しているのかという点は明らかではない。介入において記述された内容を検討することで, SC筆記介入の妥当性の確認になり, また, 参加者の体験過程の理解に繋がるであろう。そこで, 本研究では, 計量テキスト分析により, SC筆記介入における記述内容の特徴 (i.e., 抽出語, 共起しやすい語) を示す。その際, 自尊心筆記介入の内容語とSC筆記介入の内容語の比較検討を行う。
方 法
 研究に同意の得られた研究参加者84名 (Mage = 19.7, SD = 0.9) を無作為にSC筆記介入条件 (43名。男性25名, 女性18名) と自尊心筆記介入条件 (41名。男性17名, 女性24名) に割り当てた。自己の最大の弱みを想起した後に, 参加者は条件に応じて筆記課題に取り組んだ。Zhang & Chen (2016) に基づき, SC筆記介入条件では「自分自身に語りかけるように, その弱み (短所) を抱える自分に思いやりと理解を示すような自分自身への声かけ」の記述を求めた。自尊心筆記介入条件では「あなたが自分のことを有能で, 価値ある存在だと思える強み (長所) に目を向けて」, その長所を記述するように求めた。本研究では, その教示に基づき参加者が記述した文章に対して, KHコーダー (樋口, 2014) による計量テキスト分析を行った。その際, 漢字表記とひらがな表記の統一など, 各回答者の表現の揺れを可能な限り修正した。
結 果 と 考 察
 SC筆記介入条件において, 総抽出語数は1874, 使用は752, 異なり語数は466, 使用は337, 文は88であった。自尊心筆記介入条件において, 総抽出語数は1491, 使用は598, 異なり語数は397, 使用は298, 文は89であった。
 各介入条件における語の特徴を検出するために, 条件を外部変数とした共起ネットワーク分析を行った。その際, 水野 (2015) にならい, 有効回答数の約10%を分析の基準とし, 本研究では出現頻度が4回以上の単語を分析対象とした。また, 森田他 (2017) にならい, Jaccard係数が.10以上の語を抽出した (Figure 1)。その結果, SC筆記介入では, 「自分」(.30) , 「人」(.30), 「気」(.20) がこの条件と強く関連していた。SC筆記介入では「自分だけが人見知りではない」といったSCの人としての共通体験 (Neff, 2003) を反映する内容や「そこまで気にすることでもない弱みなので大丈夫」といったSCのマインドフルネスや自分への優しさ (Neff, 2003) を反映する内容がSC筆記介入の参加者の発言に認められた。一方, 自尊心筆記介入では「考える」(.29), 「物事」(.20), 「行動」(.19) といった自己の判断力や行動力に関する記述がこの条件と強く関連していた。以上の結果より, 自己の主体性に関する特徴語が抽出された自尊心筆記介入条件に比べて, SC筆記介入条件では周りとの繋がりを意識した情動制御に関する語が特徴的であった。
 次に, SC筆記介入条件において, 出現パターンが似ている語のグループを明らかにするために, 共起ネットワーク分析を実施した。その結果「短所」は「仕方がない」や「少し」といった語と共起しており, 短所への過剰反応を防ぐような文章が記述されている様子がうかがえた。また,「周り」, 「見る」, 「気」が共起していた。「確かにそうかもしれないけど, 周りの人たちからしたらそんなこと一切関係ないと思うし, 意識してないと思うよ」という参加者の記述に認められるように, 第三者の立場にたって自己の弱みを眺め直すことが示唆された。さらに, 「他」, 「比べる」, 「たくさん」, 「持つ」が共起していた。「他人も自分の短所をたくさん持っており人それぞれだと感じている」という記述に代表されるように, 自己の弱みを人間らしさの一部として捉えようとしていた。以上の結果より, SC筆記介入ではSCの構成概念を反映した文章が記述されていることが示された。SC筆記介入により, 参加者は自己の弱みに対して, 幅広い視点から, 折り合いをつけようとしていた。この体験が, 筆記後のSCの向上に寄与するのであろう。

キーワード
セルフコンパッション/質的研究/自尊心


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