発表

3C-003

診療報酬における心理検査の変遷

[責任発表者] 鈴木 朋子:1
[連名発表者・登壇者] 名取 洋典:2
1:横浜国立大学, 2:医療創生大学

目的
 2015(平成27)年の公認心理師法の制定を受けて,2019年に日本初の心理の国家資格,公認心理師が誕生した。同法の第二条では,保健医療他の分野において,心理学の専門的知識及び技術をもって心理状態を観察し,結果を分析すると規定されている。心理検査の実施と分析は,この業務を示している。
 ところで医療分野における公認心理師の業務は,日本の医療制度のなかで行われる。日本の医療制度では,心理検査は「臨床心理・神経心理検査」として診療報酬の対象とされてきた。「臨床心理・神経心理検査」は,年により指定される心理検査が異なる。指定の心理検査は,精神医学の動向や国民の必要とする医療サービス,政府の方針等を反映すると考えられるが,沼(2008)を除いて報告はない。
本研究では,平成18年以降の臨床心理・神経心理検査の変遷を検討することを目的とする。
診療報酬について
 診療報酬は,1927(昭和2)年の健康保険法施行に伴い,都道府県医師会が独自に公定料金を規定したのに始まる。1943(昭和18)年以降,医療行為ごとに厚生大臣が価格を定める方式になり,1948(昭和23)年には,社会保障診療報酬支払基金法に基づき公定価格としての診療報酬が医療機関に支払われる方式になった。1958(昭和33)年の新医療費体系導入後,1点が10円に規定された。診療報酬の価格は厚生大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会で2年ごとに決定され,「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」として厚生労働省より告示される(土田,2015)。
「臨床心理・神経心理検査」は,上記の告示で点数が定められ,該当の心理検査名は厚生労働省保険局医療課長による「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」で通知される。平成18年改定で,心理検査は,医師の指示の下で他の従事者が検査及び結果処理を行っても算定可能となった。つまり,心理士等の心理検査実施が公に認められたのは,平成18年度以降といえる。
方法
 平成18年度から平成30年度までの「診療報酬改定に係る通知等について」及び「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」を対象とした。区分番号(「D283 発達及び知能検査」,「D284 人格検査」,「D285 その他の心理検査」)および操作の容易さ(「1 操作が容易なもの(以下1)」,「2 操作が複雑なもの(以下2)」,「3 操作と処理が極めて複雑なもの(以下3)」について,指定された心理検査の件数を集計した。さらに,平成30年指定の検査のうち,2019年4月時点の入手可能性を,心理検査出版社等(千葉テストセンター,サクセス・ベル,三京房,トーヨーフィジカル,京都国際社会福祉センター)のホームページにて調査した。
結果と考察
 Table1に集計結果を示す。「D283 発達及び知能検査」は,平成22年に2件追加,平成24年以降は新たに3が設定されてウェクスラー式知能検査3件が指定され,平成26年にはベイリー発達検査が指定された。デンバー式,ベイリーを除く検査が心理検査出版社等より入手可能であった。
「D284 人格検査」は,平成18年以降,指定の検査に変更がない。標準化作業中の16P-F,PTSD臨床診断面接尺度のCAPS以外の心理検査は入手可能であった。
「D285 その他の心理検査」は,平成20年に「認知機能検査その他の心理検査」と区分名称が変更され,9件の心理検査が追加された後,件数は漸増している。検査内容をみると,平成20年追加分はSIBやADAS等の認知症の重症度評価,平成22年追加分は標準高次動作性検査等の高次脳機能障害の検査,平成24年以降は発達障害(ASD,ADHD)の検査,児童の精神症状(抑うつ,強迫,不安,解離)の尺度が指定され,平成30年にはHDS-R,MMSEの軽度認知症検査が算定可能と改定された。
 指定の検査の変遷からは,発達障害,認知症,高次脳機能障害,児童の精神症状に関する問題が指定の時期に重視されたとうかがえる。背景には,DSMによる診断基準の改訂と患者数の増加,薬の開発や適用など精神医学の動向のほかに,社会的ニーズに応じた法の制定もあるだろう。診療報酬に指定される心理検査が社会の変化を反映する一方で,標準化作業や普及が伴わず,入手困難な検査が含まれているのは課題である。
引用文献
沼初枝(2008).医科診療報酬における臨床心理・神経心理検査 : 近年の動向と特徴.立正大学臨床心理学研究 (7), 23-30.
土田武史(2015).診療報酬(日本大百科全書,小学館)
本研究はJSPS科研費15K04117, 19K03336の助成を受けたものです。

キーワード
心理検査/診療報酬/心理学史


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