発表

3A-001

自由と健康の共通原理としての制御
‐知覚制御理論アプローチ‐

[責任発表者] 金築 優:1
[連名発表者・登壇者] 金築 智美:2
1:法政大学, 2:東京電機大学

はじめに
 自由と健康は,人間がより良く生きていくために重要な概念である。誰にとっても自由と健康が保たれる社会が理想であり,そのような社会の実現のために,心理学の貢献が求められる。しかし,自由と健康の定義は,曖昧になりがちであり,科学的な研究が難しい現状がある。本発表では,自由と健康の共通原理であると考えられる制御に着目し,制御を説明する知覚制御理論(perceptual control theory: 以下PCT)を援用しながら,自由と健康をどのように捉えることが可能であるかを考察する。
自由,健康及び制御の定義
 自由の辞書的な定義は様々あるが,よく挙げられる要素として,「外的束縛がない」や「自分の意のままに振る舞うことができる」といった点がある。Marken & Carey(2015)は,人間を生きる制御システムとして捉えると,自由であることは,制御できている(being in control)ことを意味すると述べている。制御という観点からは,「外的束縛がある」ということは,外的な要因によって,自らの制御が阻害されていると解釈できる。
 一方,健康の定義については,WHO憲章では,「完全な肉体的,精神的及び社会的福祉の状態であり,単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義されてきた。この定義における「完全な状態」がどのような状態であるかを知ることは難しい。そこで,Carey(2016)は,健康を,「個人にとって重要な生物学的,心理学的及び社会学的変数が制御できている状態」と捉えることを提案している。
 制御の定義は,PCTの提唱者であるアメリカの科学者であるWilliam Powers(1926-2013)によると,「環境からの外力を打ち消すように,環境に働きかけることによって,制御システム内に予め定められた状態の知覚水準に達し,それを維持すること」とされる(Powers, 1973)。制御の定義は,自由と健康の定義と比して,より精密かつ正確である。また,上に述べた通り,自由と健康の両方に,制御は密接に関連していると考えられるため,自由と健康を,制御の観点から捉えることは有用であろう。
制御という原理と知覚制御理論
 制御を説明する理論がPCTであるが,PCTでは,制御は負のフィードバック・ループによって実現されると考えられている。具体的には,外部からの入力(知覚)を,内的基準と比較し,その差(エラー信号)を無くすように,出力(行動)するといった負のフィードバック・ループを想定しているのである(Powers, 1973)。このように人間の行動を負のフィードバック・ループの観点から捉えると,行動は,常に多様に変化しながらも,結果的には,知覚を一定に保つために機能しているといえる。つまり,「人間の行動は,知覚の制御である」ということがPCTの核心である。また,人間は,この無数の負のフィードバック・ループが並列的かつ階層的にネットワークを構成する制御システムであるとされる。制御システムにおける階層性は,高次のフィードバック・ループの出力が低次のフィードバック・ループの内的基準になることによって機能し,複雑な知覚を制御可能にしている。一方,無数の知覚を同時に刻一刻と制御しているシステムにおいては,ある一つの知覚を,複数の相反する内的基準によって制御しようとし,葛藤が生じることもある。
自由と健康への知覚制御理論アプローチ
 自由が阻害される主要な要因を,PCTと制御の負のフィードバック・ループの観点から分類すると,(1)知覚機能が阻害されている,(2)内的基準が不明である,(3)出力機能が阻害されている,(4)葛藤が生じている,(5)外力が大きすぎる,等が考えられる。この5つの要因中の4つは,内的要因であることが特徴的である。また,PCTの制御システムの階層性の観点からは,高次の制御システムは,低次の制御システムと比して,自由度が高いということが考えられる(Marken & Carey, 2015)。なぜならば,高次の制御システムはより抽象的な知覚(例,どんな自分でありたいか)を制御し,低次の制御システムはより具体的な知覚(例,どんな文章を書くか)を制御していると考えられているからである。このことから,個人の自由を考える際に,制御システムのより高次な階層に気づきを高めるようなカウンセリング・心理療法のアプローチの有効性が期待される。
 健康を考える上では,前述した通り,生物学的,心理学的及び社会学的側面をホリスティックに捉えることが重要であろう。これらの3つの側面を別々に研究するのではなく,例えば,生物学的及び心理学的変数にまつわる負のフィードバック・ループによる制御が,社会学的変数の制御にどのような影響を与えているかといった学際的な研究が求められる。また,心の健康を保つということを,制御の観点から捉えた際に重要になるのは,葛藤を長期化させないということである。PCTに基づいたカウンセリング・心理療法としてMethod of Levels(Carey, 2006)というアプローチがあるが,今後このアプローチに関する日本での基礎研究及び効果研究の蓄積が求められる。
おわりに
 自由と健康を保つ上では,制御がうまくいっていることが必要であり,自由と健康は互いに高め合うことが示唆される。今後,知覚制御理論に基づく心理学研究が多くなされ,人間の自由と健康に貢献することが期待される。
主な引用文献
 Marken, R. & Carey, T. (2015). Controlling people: The paradoxical nature of being human. Australian Academic Press.
 Powers, W.T. (1973). Behavior: The control of perception. Benchmark Publications.

キーワード
制御/自由/健康


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