発表

2B-002

数字,「恋愛」,そして語り

[責任発表者] 仲嶺 真:1
1:高知大学

目 的
 1990年に刊行された心理学評論誌の特集「愛」を契機に,日本における恋愛に関する心理学の研究(以下,恋愛心理学)の様相が変わったとされる(松井, 1998)。そうであれば,日本における恋愛心理学が新しい様相になってから2020年で30年になる。30年とは,人間で言えば三十路であり,而立である。今後の恋愛心理学を考えるにあたり,これまでに日本で行われた恋愛心理学を整理することは重要であろう。
 もちろんこれまでにも恋愛心理学を整理する試みはいくつか実施されている(髙坂, 2016; 松井, 1990; 立脇・松井, 2014; 立脇・松井・比嘉, 2005)。しかし,これらは整理対象となる恋愛心理学の論文の基準や,対象とする学術誌が各自異なる。一定数の学術誌を対象に同じ基準を用いてこれまでの恋愛心理学の論文を整理することは,今後の恋愛心理学を考える貴重な資料となるであろう。
 そこで本研究では,比較的明確で,かつ,幅広く論文を収集できる立脇他(2005)の基準を用いて,インパクトファクターの観点から見て主要な心理学和文雑誌27誌(加藤・馬場・太幡・下田・福田・大久保, 2013)を対象に,恋愛心理学の論文を収集・整理する(本発表では18誌の結果を報告する)。立脇他(2005)では1985年度の論文から収集しているため,本研究もそれに倣い1985年度の論文から収集を始め,2017年度の論文まで収集する。

方 法
 1985年度から2017年度の間に発表された論文を対象に恋愛心理学の論文を検索した。対象学会誌は心理学研究,動物心理学研究,教育心理学研究,心理学評論,社会心理学研究,実験社会心理学研究,特殊教育学研究,行動計量学,基礎心理学研究,生理心理学と精神生理学,青年心理学研究,行動分析学研究,健康心理学研究,発達心理学研究,感情心理学研究,パーソナリティ研究(性格心理学研究),認知科学,認知心理学研究の18誌であった。
 収集の基準として,以下の3つの基準のいずれかを満たしている論文を収集した(立脇他, 2005)。第一に,タイトル,問題,結果に「恋愛」「異性交際」「異性関係」「恋人」のいずれかが含まれている論文,第二に,初対面の異性の外見を扱った論文のうち,「その異性との交際可能性」を測定している論文,第三に,性行動や性意識に関する論文のうち,「恋人」の有無による行動や意識の違いを検討した論文や恋愛行動,恋愛意識についても測定している論文であった。このうち,立脇他(2005)と同様に,初対面の異性の外見を扱った論文のうち,単に印象評定の一部として「魅力」を測定している論文や,一般的な「対人印象」を測定している論文,5つ以上の対人関係を扱うなど恋愛に特定した論考が行われていない論文,青年期の発達課題である「一般的な異性との親密性」のみを扱い,「親しい異性」に対する具体的な意識や行動を検討していない論文は収集対象から除外した。
 収集論文の整理に関して,本発表では,研究アプローチ,つまり定量的アプローチか定性的アプローチか(いわゆる量的調査か質的調査か)で論文を整理した。定量か定性かを区別する観点は多岐にわたり,少なくとも5つの観点(学問分野,技法,データのタイプ,報告書の文体の特徴,認識論的前提)から論ずることができる(佐藤, 1996)。定性・定量に関する従来の議論は技法とデータのタイプを中心に展開してきたため(佐藤, 1996),まずはこの2つの観点から整理を試みた(整理基準の詳細は佐藤, 1996, p.1024)。

結 果
 収集された論文数は101本であった。1985年度から1999年度までは26本,2000年度から2017年度までは75本の論文が発表され,2000年度以降は毎年論文が発表されていた。
 雑誌別にみると,心理学研究(14本),教育心理学研究(2本),心理学評論(5本),社会心理学研究(25本),実験社会心理学研究(20本),青年心理学研究(8本),発達心理学研究(9本),感情心理学研究(2本),パーソナリティ研究(15本),認知科学(1本)の10誌に論文があった。
 これらの論文のうち5本がレビュー論文であった。そのため,この5本を除く96本の論文を対象に,研究アプローチによる整理を行った。なお,両アプローチに該当する論文もあった。整理の結果,技法の観点から定性(事例研究法)に分類された論文は2本,定量(統計的研究法)に分類された論文は95本であった。データ(資料)のタイプの観点から定性に分類された論文はなく,すべての論文が定量に分類された。データ(尺度)のタイプの観点から定性に分類された論文は33本,定量に分類された論文は94本であった。

考 察
 これまでの日本における恋愛心理学のほぼ全てが実験や調査によって「恋愛」を数字に置き換えてきた。尺度の観点から定性に分類された論文が3割程度存在するものの,これらの論文も2値データ(名義あるいは順序尺度)を使用するなど,「恋愛」を数字に置き換えていた。すなわち,恋愛心理学は数字とだけ向き合い「恋愛」を知ろうとしていた。しかし,数字の意味は事例の中にしか存在しない。その意味において,今後の恋愛心理学は,生活史調査のような方法で個人の「恋愛」を知る必要がある。数字と事例それぞれの語りに耳を傾け,「恋愛」と真っ向から向き合う。これが不惑に向けた日本の恋愛心理学の命題であろう。

謝辞 論文収集にあたり高知大学の伊田郁哉さん,中西明子さん,瀧本音彩さん,田中沙季さん,大髙鼓子さん,大和田英佑さんのご協力を得ました。記して感謝申し上げます。

キーワード
恋愛/生活史/量的調査


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