発表

2B-001

記憶療法によるワーキングメモリネットワークとデフォルトモードネットワークへのアプローチ
記憶連鎖法を活用した創造的イメージワークの試み

[責任発表者] 佐久間 伸一:1
[連名発表者・登壇者] 渡辺 純子#:2, 矢口 大雄:3
1:国際医療福祉大学, 2:昭和大学, 3:和洋女子大学

1.記憶療法(Memory Therapy)について
 Lorayne and Lucasによって,Memory Bookが出版されたのは1974年のことである。彼らは,記憶術における効果的な記憶の基本的な条件として4つのルールを指摘した。提示されたイメージが,Out of proportion,Exaggeration,Substitution,Actionを含むものであることとした。さらにHigbee(1977)は,記憶術ないし記憶技法の背景にある基本的学習原理として,Meaningfulness,Organization,Association,Visualization,Attention,Interest,Feedbackの要素を示している。これらの知見を参考にし,勝俣(1993)は,臨床場面における記憶療法の開発に取り組んだ。記憶療法を「記憶術ないし記憶技法の訓練(記憶訓練)を媒介にして,記憶成績の向上を図るとともに,心理的効果を獲得できるように,クライアントを援助することを主眼とする心理療法である」と定義している。。
 佐久間(2013)は,勝俣による指導のもと,場面緘黙の不登校生徒に対する記憶療法を実施したが,セッションを通じて,イメージ連鎖法の習得により生徒の集中力・想像力・達成感・有能感・自信などが体験されることをみた。生徒はその後通常登校を実現した。
2.記憶療法によるワーキングメモリネットワーク(WMN)とデフォルトモードネットワークへ(DMN)のアプローチ
 記憶技法の「連鎖法」とは,「父親」「背広」「指輪」・・・といったリストを繋げて覚える方法である。上述の4つのルール(不均衡・誇張・置き換え・動き)を生かしたイメージ画を用いる。1枚目は「父親」と「背広」が描かれた画,2枚目は「背広」と「指輪」が描かれた画というように順次イメージ画を掲示し,クライエントにはイメージ画を思い起こしながらリスト全部を答えるというワークである。
 4つのルールによる「生き生きした」「視覚的な」「とっぴな」絵ないしイメージを用いることは,短期記憶を海馬を経て長期記憶に送るための有効な手段といえよう。
 また,記憶療法のセッションの構造は,リラクセーションと記憶訓練が併用されており,脳のDMNとWMNを刺激するワークと考えられる。クライエントがイメージ画に目を向け記憶しようと試みるセッションは,ワーキングメモリの作業ではイメージ画に注意を向け集中している状態である(不安や心配事は主眼とならない)。そして課題を再生する段階においては,記憶の断片を繋ぐ機能を担うと考えられるDMNの活動にも貢献していると思われる。苧阪ら(2018)はヒトの脳を,「社会脳(デフォルトモード)と認知脳(ワーキングメモリ)ネットワークの協調と競合」と表現しているが,記憶療法のセッションはそのようなトレーニングの場とも考えられる。連鎖法によるイメージ効果には,前進的に進むこと,既成常識にとらわれず開放的であること,ポジティブなイメージに満たされていることなどの特色がある。そして,セッション毎の課題の成功には,クライエントの達成感・有能感・自信といったコンピタンスの発揮が促される。
3.記憶療法によるWMNとDMNの協調を企図した創造性ワークの可能性
従来のクライエントを対象にした記憶療法連鎖法ワークでは,予めセラピスト側が作成したイメージ画を使って相手に提示してきた。そのセラピスト側のイメージ画作成作業もまた集中力・想像力・柔軟な認知や思考・創造性などを高めるワークとして活用できないかないかと考えた。
方法として,イメージ画の課題1(例:鉛筆とトマト),課題2(トマトと白鳥),課題3(白鳥と帽子),課題4(帽子と風船)とし,作画直前に「相手が注目し記憶に残るような絵をかいてください」と課題名(鉛筆とトマト)とともに提示し,大学生に自己の作品を描いてもらった。作画後には,①イメージの浮かびやすさ,②自己作品の評価,③課題の難易,④気分,⑤楽しさ,⑥集中度合について感想を求めた。その結果,課題1から課題4までチャレンジした大学生85名による感想の概要をみると,イメージは浮かびやすくなって,自己の作品がだんだん良くなったと感じ,課題は難しく感じることなく,作業中の気分も良く,楽しく実施出来たと報告した。臨床的実施にはまだ症例毎の検討余地があるが,健常者ではスムーズにワークに取り組めるものとうかがわれた。
近年,うつ病や統合失調症などとWMN・DMNの活動との関連が知られ始めているが,この脳のネットワークにアプローチする方法として,記憶療法のイメージワークは有効性をうかがわせるものと考える。

キーワード
記憶療法/ワーキングメモリネットワーク/デフォルトモードネットワーク


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