発表

1D-001

台湾での飯沼龍遠
台湾総督府関連の文書から

[責任発表者] 櫻井 正二郎:1
1:高雄医学大学

目的
これまで台湾心理学史についての調査は,初期の国立台湾大学心理学系に残された実験心理関係機器の存在の確認,数量のカウントから始まり。その後は,これらの機器の製造元,性能,使用状況等の調査確認。結果これらの現存機器の中には,世界的にも稀有なものが複数発見された。また,Spillmannの手助けもあり,2017年に論文として発表した(Spillmann, Lin, Sakurai,, & Chen, 2017; Spillmann, Yeh, Chen, Lian, & Sakurai, 2017)。最近は,台湾心理学会機関雑誌:「中華心理学刊」60周年記念の為,台北帝国大学心理学講座の残留機器を使用したことのある,鄭発育教授とその関連の調査を行い,論文としてまとめた(黄,櫻井,汪,審査中)。しかし,台北帝国大学心理学講座の,主要人物についての調査は,着手しておらず,今回その一番重要な講座初代教授「飯沼龍遠」の調査をした。
方法
台湾では,戒厳令解除(1987年)以降,日本統治時代(1895〜1945)の研究が解除,特に1990年以降日本統治時代の研究が盛んになり,当時の資料が再発見されるようになった。その頃から,台湾総督府関連の文書のデジタルアーカイブ化がされるようになり,インターネットにも公開されてきた。また,近年は,2002年に再編され台湾総統府直属になった「国史館台湾文献館」集約されつつあります。今まで,各研究機関に散らばっていたデータが一箇所で検索できるようになり,利便性が上がった。今回は,主にこの「国史館台湾文献館」のデータベースを使い,調査を行った。ただ,台湾総督府職員録は,未だにここになく,中央研究院台湾史研究所で検索した。検索した文書は,台湾総督府府報,台湾総督府檔案,台湾総督府職員録などです。
結果
飯沼龍遠をキーワードに検索した結果,文書:台湾総督府檔案から「高等官進退原義(官房秘書課)」7項目,台湾総督府府報に64項目,台湾総督府職員録に17項目ヒットしました。
期間にすると,大正15年から昭和15年までです。内訳で見ると,台湾総督府職員録には,毎年一回教授の辞令とその他3回台北帝国大学各種委員会評議員の名簿として名前が乗っていた。高等官進退原義には,教授の辞令の原案,台北帝国大学評議員の辞令の原案,視学講習会の講師辞令原案,国民精神文化講習会の講師辞令原案,退官届けと退職賞与計算等があった。台湾総督府府報には,上記2種類文書の公式広報として搭載されていまます。府報には,その他出張や外遊などの記録も載っていた。
一番詳細な記録は,高等官進退原義にあり,とくに台北帝国大学教授の辞令の原案には,3ページの略歴があり,明治42年9月第八高等学校入学以降の詳しい学歴と経歴が掲載されていた。略歴によると,大正15年4月10日に台湾総督府高等学校教授に任命されているのですが,その前の大正14年11月12日には,文部省より1年半ドイツへ留学するよう命令があり,同時に在外中に家族手当を給付することも記載されていた。また,高等学校教授任命と同時に,台湾総督府在外研究員にも任命され,留学先はドイツ以外にフランス,イギリス,アメリカ4カ国になり,期間も1年10ヶ月に延長された。実際は,大正15年4月15日神戸より出国し,府報よると昭和3年5月11日帰国したとあります。
考察
これらの文書から推測できるのは,大正14年ごろには,飯沼は台北帝国大学心理学講座の教授に内定していたのではないかということ。台北帝国大学就任前には,台湾総督府高等学校,後の台北高等学校の教授に就任。ほぼ同時期に台湾総督府高等学校校長になった三澤糾(ただす)は,明治37年(1904年)東京帝国大学哲学科卒業,明治40年(1907年)クラーク大学心理学部でPh.D.を取得。三澤の博士論文は,高等官進退原義によると,「近世教育哲学史概論」とあるので,教育心理学寄りの心理学と推測されます。
これらの資料に依ると,飯沼はこれまで知られたドイツ以外に,フランス,イギリス,アメリカにも立ち寄っった模様。その期間も,最初の一年半の予定より,実際二年二ヶ月も費やし,台北帝国大学開校より遅れて戻ってきたようです。飯沼は,台北帝国大学心理学講座に着任後度々海外,内地に出張があり,また大学の評議員,各種講習会の講師などを努め,多忙であったようです。
これらの文書より,飯沼が台湾での公務に関する行動が,より詳細にわかってきた。しかし,これらより飯沼が,どのように台北帝国大学心理学講座運営,研究に関わってきたかは,推測の域を出ません。
これからは,飯沼と同時期に就任した,心理学講座の力丸,藤澤関連の文書を調査して,彼らの関係性と,心理学講座実態をさらに明白にしていきたい。また,台北帝国大学以外,当時の台湾に滞在していた,心理学関係者(少なくとも台北高等学校三澤校長他,今崎秀一が心理学を教えていました)の資料を調査する予定です。
参考文献

国史館台湾文献館 入り口: http://ds3.th.gov.tw/DS3/
台湾総督府職員録ホームページ:http://who.ith.sinica.edu.tw/mpView.action

キーワード
心理学史/台北帝国大学/台湾


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