発表

1B-002

投映描画法における母子画の対象関係評価の妥当性に関する研究

[責任発表者] 志村 秀実:1
1:北野台病院

【目的】本研究では,投映描画法における母子画(Gillespie,1994)の対象関係評価の妥当性の検証を,母子画に描かれた「表情」と「視線」の観点から行うため,母子画と対象関係関連尺度質問紙を併用実施し,両者の関連性について統計的分析を行った。今回,「表情」の分析結果の一部について報告する。
【方法】手続きは,大学生男女(平均年齢20歳,SD:1.2歳)を協力者として集団(40名~86名の4グループ)で母子画と描画後質問および妥当性信頼性の検証された対象関係尺度2種を実施し得られた中から有効回答188名分のデータを用いて,母子画の対象関係評価に関して「表情」の群間において分散分析およびt検定を実施し,基準関連妥当性の観点から分析を行った。本研究は倫理審査を経て実施された。
 母子画の教示は,「お母さんと子どもの絵を描いてください」(馬場,2005)とした。併用実施した質問紙は,母子画描画後質問(馬場,2005), 青年期用対象関係尺度(ORS)(井梅・平井・青木・馬場,2006), 内的対象尺度(IOS)(重松,2005)の3種である。
 母子画の多数ある描画指標の中で,本研究で分析指標とした「表情」は,人物像の相互作用に関わる表現であり,描画者の内的世界における対象関係を理解する上で重要な指標であると考えられる(近藤,2009)。表情は,「笑顔」「非笑顔」「空白顔」の各群の分類を,筆者を含む5名により判定し,一致率は母85.6%,子82.8%であった。
 理論仮説として,描かれた母子画に描き手の対象関係が投映されるとすれば,母子画の描画内容である表情と視線の描画指標(独立変数)と,信頼性と妥当性の検証された対象関係尺度である ORS と IOS の各下位尺度の平均値の結果(従属変数)に有意な関連の出現を予測した。作業仮説として,「笑顔」を描いた群は,「非笑顔」や「空白顔」群に比べて,適応的な対象関係を表すと考えられ,ORS と IOS の下位尺度の平均得点が有意に低くなることを予測した。
【結果】母子画に描かれた「表情」は,母子共に「笑顔」が58.8%と最も多く,次いで「非笑顔」と「空白顔」が17~18%を推移している。「表情」に関する ORS および IOS の分析結果は以下となった。(1) 母子共「笑顔」「非笑顔」「空白顔」群間(それぞれ母子共に同じ表情の計153名分)で分散分析の結果 IOS の下位尺度「良い対象」において有意差が認められ(table 1)(効果量η2=.06,中程度),多重比較(table 2)の結果,「笑顔」群が「空白顔」群に比して有意に低い平均得点(table 2)(効果量d=.57,中程度)となった。(2) 母の「笑顔」「空白顔」群間(それぞれ母の表情の計144名分)でt検定の結果(table 3),IOS の下位尺度「良い対象」において「笑顔」群が「空白顔」群に比して有意に低い平均得点(table 3)(効果量r=.17,小程度)となった一方で, (3) ORS の下位尺度「見捨てられ不安」項目で「笑顔」群が「空白顔」群に比して有意に高い平均得点(table 3)(効果量r=.18,小程度)となった。
【考察】(1)の結果から有意差が確認されたが効果量は中程度であり,参考程度ではあるが,「笑顔」群では,「良い対象関係」が自らの内的世界に内在化されており,外的世界の「良い対象関係」に投映され,その結果 IOS の「良い対象」項目を良いものとして受け取っていると推測される。他方,「空白顔」群は,顔そのものが対象化できていないだけではなく,「良い対象関係」が「笑顔」群ほど内在化されておらず,外的世界において「良い対象関係」を投映する力が不十分なため,その結果 IOS の「良い対象」項目を良いものとして受け取ることができなかったと推測される。(2)(3)の結果で有意差が認められ,(3)の有意差結果から母の「笑顔」群の中に「見捨てられ不安」の高さが投映されていることが含意されたが,効果量は小であり,実質的な効果は期待されないと考えられる。
【文献】
馬場史津(2005).母子画の基礎的・臨床的研究. 北大路書房.
Gillespie, J.(1994).The Projective Use of Mother-and-
  Child Drawings.
New York: Brunner/Mazel.(松下恵美
  子・石川元(訳)(2001). 母子画の臨床応用 対象関係
  論と自己心理学. 金剛出版.)
井梅由美子・平井洋子・青木喜久代・馬場禮子(2006).
日本における青年期用対象関係尺度の開発.パーソナリ
ティ研究,14 (2), 181-193.
近藤孝司(2009). 描画法による対象関係のアセスメント---
S-HTPPにおける描かれた人物像の相互作用の検討.
臨床描画研究, 24, 146-162.
重松晴美(2005).青年期における孤独感および内的対象の
想起に関する研究--境界例心性を通して. 心理臨床学研究,
22, 659-664.

キーワード
母子画/対象関係/妥当性


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