発表

2D-087

屋久島のウミガメ産卵の観察体験が自然保護意識に及ぼす影響(2)
ウミガメ保護の方策の是非に影響する要因

[責任発表者] 伊藤 忠弘:1
1:学習院大学

目 的
 自然の中での体験や野生動物の観察には,人間と自然のあり方について認識を深め,環境配慮的な態度や行動を促すという環境教育としての側面が暗に仮定されている。本研究では世界自然遺産の屋久島でアカウミガメの産卵を観察した観光客を対象に質問紙調査を行った。参加者(調査対象者)は20代後半から40代前半の女性が多く(44.9%),観察後の印象・満足度では「心から感動した」や「価値ある経験だった」に9割近くが「あてはまる」方向で回答した(伊藤,2018)。今回の分析では,ウミガメ産卵の観察の印象・満足度と,ウミガメに対する愛護・保護意識,ウミガメ保護の方策の是非を尋ね,ウミガメ産卵の観察という自然体験プログラムの効果を探索的に検証する。
方 法
 調査実施期間 2013年7月17日~31日の間の9日間
調査対象者 鹿児島県屋久島町の永田ウミガメ連絡協議会が実施したウミガメ観察会の参加者に質問票を配布し,後日郵送による返送に応じた島外に住む247名(男性73名,女性174名;年齢は21から78歳;回収率43.5%)。
 質問内容 (1)観察の印象・満足度 「産卵するウミガメの姿に心から感動した」などの5項目で尋ねた。(2)ウミガメに対する愛護・保護意識 3つの観点から項目を作成した。1つ目はウミガメへの愛護意識・関心であり,「ウミガメはかわいいと思う」,「ウミガメの生態をもっと知りたい」などの4項目,2つ目はウミガメへの保護意識であり,「ウミガメの保護のための募金があれば協力したい」,「ウミガメ保護の必要性を周りの人に伝えたい」などの3項目,3つ目はウミガメと人間の関係性の認識であり,「ウミガメは人間の犠牲者だと思う」,「ウミガメを保護することは人間のためにもなると思う」などの4項目であった。(3)ウミガメ保護の方策の是非 3つの観点から項目を作成した。1つ目は海岸の利用制限の賛否であり,「ウミガメの産卵や子ガメのふ化が多い一定期間中(例えば6月から8月)にウミガメの上陸が多い海岸への夜間の自由な立ち入りを禁止する」など4項目に対する賛否,2つ目は食用・利用の是非であり,「ウミガメの卵や肉を流通させたり販売すること」,「『べっ甲』のようなウミガメの甲羅を利用した工芸品を制作したり販売すること」など5項目に対する是非,3つ目は介入・研究・展示の是非であり,「台風のときなどの大波でさらわれそうな場所に産卵したウミガメの卵を掘り返して,別の場所に埋め直すこと」,「調査のために,上陸してきたウミガメの足に個体識別用のタグ(番号が書かれたプラスチック片)を装着すること」など6項目の是非を尋ねた。いずれも5件法で回答を求めた。
結 果
 尺度項目の反応の検討 観察の印象・満足度のα係数は.81で各項目の平均値も4.3から4.4と高かった。ウミガメに対する愛護・保護意識の項目の因子分析では2因子解しか得られなかったが,最初に想定した観点に従い下位尺度を構成し平均値により下位得点を算出した。α係数は愛護意識・関心で.76,保護意識で.73であったが,ウミガメと人間の関係性の認識では相関の低い1項目を除いても.63であった。ウミガメ保護の政策の是非については因子分析の結果,想定された3因子解を確認し,負荷量が.60に満たなかった1項目のみ除いて下位尺度項目とした。海岸の利用制限は各項目の平均値が4.1から4.8と賛成に偏っており,α係数は.76であった。食用・利用の是非は各項目の平均値が3.8から4.5と認めない方向に偏っており,α係数は.86であった。介入・研究・展示の是非は各項目の平均値が2.2から2.3と認める方向に偏っており,α係数は.81であった。
 下位尺度間の相関 ウミガメに対する愛護・保護意識の3つの下位尺度間は1%水準で有意な正の相関(.31から.62)が認められた。ウミガメ保護の方策の是非の3つの下位尺度間の相関は有意でなかった。印象・満足度は愛護意識・関心と保護意識とは有意な正の相関(.38および.29)が認められたが,関係性の認識とは有意な相関が認められず,ウミガメ保護の方策の是非の下位尺度との相関も有意でなかった。ウミガメに対する愛護・保護意識とウミガメ保護の方策の是非の間では,愛護意識・関心との有意な相関は認められず,保護意識が海岸の利用制限の賛成と食用・利用の禁止と有意な正の相関(.36および.24),関係性の認識が海岸の利用制限の賛成と有意な正の相関(.31)が認められた。
 ウミガメ保護の方策の是非に影響する要因 観察の印象・満足度とウミガメに対する愛護・保護意識を基準変数,ウミガメ保護の方策の是非を目的変数とする重回帰分析を行った。介入・研究・展示の是非を目的変数とするモデルは有意ではなかった。海岸の利用制限の賛成は保護意識と関係性の認識が独立に予測しており(ベータは.33および.20,p<.01),食用・利用の禁止は保護意識が予測していた(ベータは.23,p=.01)。
考 察
ウミガメの産卵の観察を感動的な体験と捉えている人ほど,愛護意識と保護意識が高かったが,海岸の利用制限やウミガメの食用や利用の禁止といった方策への態度は愛護意識ではなく保護意識によって予測されていた。これはウミガメの産卵の観察という自然体験プログラムの有効性を示唆する。一方でウミガメと人間の関係性の認識も保護方策への態度に影響していたが観察の印象や満足度とは関連がなく,一時的な体験では変容が難しい個人差変数と解釈される。自然体験プログラムの効果の検証には方法論的な困難さが伴い,因果関係についてはさらに検討を必要とする。
引用文献
伊藤忠弘 (2018). 屋久島のウミガメ産卵の観察体験が自然保護意識に及ぼす影響(1) 日本心理学会第82回大会発表論文集

キーワード
野性動物/自然保護/環境教育


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