発表

1B-089

幼少期の環境と自然との心理的つながり,風景の回復感の関係(2)

[責任発表者] 芝田 征司:1
1:相模女子大学

目的
 芝田(2018)では,幼少期を山沿いで過ごした人々と海沿いで過ごした人々との間で,風景に対する回復感の知覚や自然との一体感に違いが見られるかについて検討したが,そこには幼少期から都市部で過ごした人々が含まれていなかった。しかし,自然環境に対する心理的反応や傾向の個人差を検討するうえで,幼少期に比較的自然の豊かな環境で過ごしたかどうかは大きな要因であると考えられる。そこで本研究では,新しく幼少期から現在まで都市環境で生活している人々を対象として新たにサンプルを収集し,芝田(2018)の結果と比較することによって,幼少期の生活環境が自然風景から知覚される回復感および自然に対する心理的つながりにどのように影響しているのかを検討した。方法
 対象者 日本国内の30代〜50代の成人300名(男女各150名)から回答データを得た。対象者は,幼少期(10歳まで)および現在のいずれの生活環境も都市部の者とした。分析には,この300名分のサンプルと芝田(2018)における960名分のサンプルをあわせ,1,260名(男性630名,女性630名)分のデータを使用した。
 評価刺激 浜辺,森林,山,田園,渓流の5種類の風景写真を使用した。使用した刺激は芝田(2018)と同じものである。
 評価尺度 対象者の自然との心理的つながりの測定には「自然に対する感情反応尺度(芝田,2016)」を,各風景写真に対する回復感の測定には,日本語版Perceived Restorativeness Scale(PRS,芝田・畑・三輪,2008)を使用した。PRSについては,各下位尺度から1項目ずつの5つの評価項目と,親しみ,好みの評価項目の計7項目を使用した。
 手続き 芝田(2018)と同一の手続きを用いて調査を行った。調査はWeb上で実施し,対象者に自然に対する自然感情尺度(7段階評定20項目)に回答させたのち,5種類の風景写真についてPRSの評価項目を用いて一対比較法により回復感の評価をおこなわせた。一対比較に使用した評価刺激の組み合わせは,5C2=10通りである。評価の際には,PRSの各評価項目について,その項目が左右いずれの画像によりあてはまると思うかを,−3(左)〜3(右)の7段階で答えさせた。刺激対の呈示順序,および対となる刺激画像の左右の配置については,対象者ごとにランダムとした。結 果
 自然に対する感情反応尺度の得点については,下位尺度ごとの評定値の合計を下位尺度得点とした。各下位尺度のクロンパックαは0.85〜0.88で,下位尺度項目の内的一貫性は良好であった。PRSの得点については,刺激画像ごとに一対比較での4回の評価結果を平均して得点化した。自然に対する感情反応の下位尺度得点間の相関は,「嫌悪(A)」を除く4尺度間で0.55〜0.75,「嫌悪(A)」と残り4つの下位尺度得点との相関が−0.19〜−0.37であった。
 風景写真に対する回復感の評価では,渓流の風景で逃避や魅了の得点がとくに高く,好みの得点も高かった。また,浜辺と森林の風景に対しても,同様の傾向が見られた。なお,まとまり,適合,親しみの各得点については,風景間に大きな違いは見られなかった。
 幼少期の環境と自然風景に対する回復感の知覚,自然に対する心理的つながりの関係を見るために,回答者の性別および年齢と幼少期の生活環境,現在の生活環境,感情得点,各風景画像に対するPRS得点を用いて構造方程式モデリングによる分析を行った。
 最終的に得られた分析モデルの適合指標は,χ2(350) =1312.09, p <.001,CFI=0.976, RMSEA=0.047(90%信頼区間0.044—0.049)であり,χ2は有意であったがそれ以外の指標は良好であった。この最終モデルから,風景に対する回復感の知覚にはその風景に対する親しみの程度が強く影響していたが,自然に対する感情反応へは幼少期の環境が強い影響を持っており,都市部で生まれ育った人々よりも山沿いや海沿いで生まれ育った人々の方が自然に対するポジティブな感情が強い傾向が見られた。また,自然に対する感情の総合因子から回復感の知覚への標準化係数は0.013で,係数は有意ではあったものの,その影響はごくわずかであった。考 察
都市部で生まれ育った人々と山沿い・海沿いで育った人々とで比較をした場合,幼少期の環境の違いは都市部かそれ以外かという形で明確に見られた。このことから,自然との一体感については,海か山かという種類の違いよりも,そもそも幼少期にどれだけ自然体験をしているかが強い影響を与えている可能性が高いと考えられる。今後は,自然体験プログラムなどが自然との一体感にどの程度影響を与えられるかなどについて検討していく必要があるだろう。引用文献
芝田征司 (2018). 幼少期の環境と自然との心理的つながり,風景の回復感の関係 日本心理学会第82回大会 芝田征司 (2016). 自然に対する感情反応尺度の作成と近隣緑量による影響の分析 心理学研究, 87, 50–59. 芝田征司・畑 倫子・三輪佳子 (2008). 日本語版Perceived Restorativeness Scale (PRS)の作成とその妥当性の検討 MERA Journal, 11, 1–10.

キーワード
心理的つながり/回復環境/幼少期の環境


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