発表

1B-088

省エネ意識・行動の個人差と関連する心理学的要因
――日本人10,000人を対象とした大規模Web調査データからの検討――

[責任発表者] 伊藤 言:1
[連名発表者・登壇者] 市川 玲子:1, 澤井 大樹:1
1:イデアラボ

目 的
 地球温暖化は抜き差しならない問題であり,政治や政策レベルの知見だけではなく,個々人の行動を環境配慮的な仕方(例:省エネ型のライフスタイル)に変容させる際に必要となる行動科学的な学術的知見が求められている(Pearson et al., 2016)。人々の行動を省エネ型に変容させようと試みるとき,画一ではなく各人の個人差を踏まえた上での介入を行うことで,より効果的に省エネ行動を促すことができるだろう(Armel et al., 2013)。このパーソナライズした介入の実現に向けて,本研究では,環境省「低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)等による家庭等の自発的対策推進事業」の実証事業として2018年度に実施された日本人10,000人の大規模Web調査の分析結果の一部を報告する。
 研究の目的は2つ存在した。第1に,心理学分野において代表的に扱われてきた個人差変数と省エネ意識・行動の関係を,日本人の大規模サンプルを用いて検討することであった。日本人以外を対象とした研究では,例えば,パーソナリティのビッグファイブにおいて,調和性や開放性が高い人ほど環境に配慮することなどが示されている(Gifford & Nilsson, 2014)が,文化差の有無は定かではない。
 本研究の第2の目的は,省エネに関してポジティブな側面に焦点を当てるベネフィット評価(例:節約になる)と,省エネに関してネガティブな側面に焦点を当てるコスト評価(例:生活が不便になる)が,それぞれ異なった心理学的な個人差要因と結びついている可能性を検討することであった。これまで,省エネ意識・行動の個人差を検討する先行研究では,省エネ意識・行動のベネフィット評価の個人差と,コスト評価の個人差が,それぞれ別の心理学的な個人差要因(例:ベネフィット評価はパーソナリティの開放性と,コスト評価はパーソナリティの情緒不安定性)と結びついている可能性は想定されてこなかった。しかし,例えば,認知的熟慮性(熟慮傾向)が高い人ほど省エネ行動のベネフィット評価が高くなるが,認知的熟慮性と省エネ行動のコスト評価は無関係である可能性や,衝動性が高い人ほど省エネ行動のコスト評価が高くなるが,衝動性と省エネ行動のベネフィット評価は無関係である可能性を想定しうる。
方 法
参加者 10,000名の成人(性別は均等・年齢はほぼ均等)
手続き クロスマーケティング社を通じて2018年5月実施
心理学的個人差 パーソナリティの個人差を表すビッグファイブ(並川ら,2012),熟慮の程度の個人差を表す認知的熟慮性(滝聞・坂元,1991),罰や報酬に対する敏感さの個人差を表すBIS/BAS(高橋ら,2007),衝動性の個人差を表す非機能的衝動性と機能的衝動性(小橋・井田,2017),疲れやすさの個人差を表す易疲労性(木島ら,1996),5種類の道徳性の個人差を表す道徳基盤(Graham et al., 2011),他者に対する全般的な信頼の個人差を表す一般的信頼性(Yamagishi & Yamagishi, 1994)など。
省エネ意識・行動 省エネ意識の指標として,ベネフィット評価(例:節約になる)とコスト評価(例:生活が不便になる)などを測定した(八木田ら,2012)。省エネ行動の指標として,エアコンタイマーの利用など,13種の省エネ行動を普段どれくらい行っているかを4段階で尋ね,13種の省エネ行動の実施頻度が高いほど値が大きくなる一つの合成変数を作成した。
結 果
 単相関の分析結果を報告する(紙幅上rの値は下図参照)。省エネベネフィット評価が高いほど省エネ行動をしやすく,省エネコスト評価が高いほど省エネ行動をしにくい。省エネ行動をしやすいのは,男性よりも女性(1=男性,2=女性でダミーコーディングしている)であり,年齢・外向性・誠実性・開放性・調和性・認知的熟慮性・5つの道徳基盤・一般的信頼性が高いほど省エネ行動をしやすいこと,また,非機能的衝動性が高いほど省エネ行動をしにくいことが示された。
 女性の方が省エネベネフィット評価が高いが,省エネコスト評価は性差とほぼ無関連である。年齢が高いほどコスト評価が低下するが,ベネフィット評価は比較的変化しない。情緒不安定性が高いほどコスト評価が高くなるが,ベネフィット評価は無関連である。開放性が高いほどベネフィット評価が高くなるがコスト評価は無関連である。認知的熟慮性が高いほどベネフィット評価が高くなるがコスト評価は無関連である。BISはコスト評価と,BASはベネフィット評価と正に相関する。衝動性や易疲労性はコスト評価と相関する。5つの道徳基盤はベネフィット評価と正に相関する。
考 察
 心理学的な個人差変数と省エネ意識・行動の関係について,日本人以外を対象とした先行研究と類似したパタンが日本でも得られること,また省エネに関するベネフィット評価とコスト評価が心理学的な個人差の異なった側面と関連している可能性が示された。省エネベネフィット/コスト評価と省エネ行動の関連を踏まえた分析が今後の課題である。

キーワード
省エネ/環境配慮/パーソナリティ


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