発表

3B-088

顔と声に基づくソシオセクシャリティの推定

[責任発表者] 小林 麻衣子:1
[連名発表者・登壇者] 中村 航洋:1,2,3, 渡邊 克巳:1,4
1:早稲田大学, 2:日本学術振興会, 3:慶應義塾大学先導研究センター, 4:ニューサウスウェールズ大学

1.はじめに
ヒトの配偶行動において,恋人や配偶者と親密な対人関係を築くことは重要な側面である.ヒトは性的な関係の相手を選ぶ際,情緒的な結びつきのある相手を選ぶことが多いが,そうでない場合もある.そのような「情緒的な結びつきのない(コミットメントのない)相手と性的関係を築く傾向」はソシオセクシャリティ(sociosexuality)と呼ばれ(仲嶺・古村, 2016),一般的には女性よりも男性のソシオセクシャリティが高いことが知られている.ソシオセクシャリティの高さは,婚外交渉や多くのヒトとの性的関係による性感染症の罹患リスクと関係するため,他者のソシオセクシャリティを正確に推定することは,配偶者の選択において重要な役割を持つ.Gangestad et al. (1992) によると,ヒトは他者が異性と短い間会話をしている様子を観察することで,ある程度正確にソシオセクシャリティを推定できるとされる (r = .39).ソシオセクシャリティに関する先行研究では,その推定精度に焦点が当てられてきたが,他者のソシオセクシャリティを推定する際の評価のバイアスとその性差については未だ明らかにされていない.加えて,ソシオセクシャリティの推定が他者の動作,会話内容,外見的特徴など,何を手がかりとして行われるかについても未だ十分な知見は得られていない.
 本研究では,顔や声といった身体情報が配偶者選択の手がかりとなるという先行研究に基づき (Dixson et al., 2011; Muñoz-Reyesetal, 2015; Thornhill & Gangestad, 1999).顔と声,その両方を観察した際に,その人物のソシオセクシャリティを正確に推定できるか,推定に特定のバイアスは生じるかについて検討した.本研究ではソシオセクシャリティの態度を測定するために,日本語版ソシオセクシャリティ尺度(SOI-J; 仲嶺・古村,2016)を使用した.
2.方法
実験参加者:異性愛者の日本人成人21名(女性10名; 平均年齢19.81歳, SD=2.01)が本実験に参加した.
刺激:異性愛者の日本人成人女性16名,男性15名が「こんにちは,はじめまして」と発話する様子を正面から撮影した動画を用いた.実験では,動画を加工し,映像なしの音声のみ(Voice条件),音声なしの映像のみ(Face条件),音声付き映像(Voice+Face条件)の3種類の動画を提示した.被写体となる人物のソシオセクシャリティについてはSOI-J (Sociosexual Orientation Inventory in Japanese; 仲嶺・古村, 2016)により測定した.SOI-Jの態度得点で得られた値を本研究における正答の情報とした(被写体の解答).
手続き:実験参加者は実験刺激動画を観察し,3条件(Voice, Face, Voice+Face条件)それぞれに関して,被写体の人物のソシオセクシャリティ(SOI-Jの態度得点)を推定する課題を行った.評価項目は①愛のないセックスでも構わない,②自分がいろいろな相手と「軽い気持ちで」セックスすることを居心地よく感じたり,楽しんだりしているところを想像できる,③自分たちは長期的な真剣交際をすると確信するまで,その人とセックスをしたくない(逆転項目),に関して5件法で評価された(1:とてもそう思う,5:全くそう思わない).SOI-Jの態度得点については,評定値が高いほど短期的な配偶戦略をとりやすいことを意味する.
3.結果
被写体のSOI-J態度得点に関して,t検定により男女差の解析を行ったところ,男性の被写体の方が女性の被写体よりもSOI-Jの態度得点が高かった(t(29)=2.13, p < .05).ソシオセクシャリティの推定について分析するために,実験参加者が推定したSOI-J得点から被写体の解答したSOI-J得点を引いて,推定誤差得点を算出した.推定誤差得点についての2(参加者の性別:男性vs. 女性)× 2 (被写体の性別:男性 vs. 女性)× 3(動画:Voice vs. Face vs. Voice+Face) の3要因の分散分析を行った.その結果,参加者の性別の主効果は有意傾向であり,男性の実験参加者は女性よりも被写体のSOI-Jの態度得点を高く推定する傾向があった(F(1,19)=4.23, p = .05).また,被写体の性別の有意な主効果が認められ,男性の被写体よりも女性の被写体に対し,SOI-Jの態度得点を高く見積ることが明らかになった(F(1,19)=1069.96, p < .001).動画の種類の有意な主効果は認められなかった(p = .09).また,実験参加者の性別と動画の種類に関して有意な交互作用が認められ(F(2,38)=3.94, p < .05),Face条件とVoice+Face条件に関して男性の実験参加者が女性の実験参加者よりもSOI-Jの態度得点を高く推定していた(ps <.05).
4.考察
本研究では,他者の顔と声からソシオセクシャリティを正確に推定できるのかについて検討した.その結果,被写体が回答したソシオセクシャリティ得点に関して男女差が認められ,先行研究と同様に女性よりも男性のソシオセクシャリティの得点が高かった(Schmitt et al., 2003; Schmitt, 2005; 仲嶺・古村,2016).加えて,男性の実験参加者は女性の実験参加者よりも異性の被写体のソシオセクシャリティの態度得点を過大推定する一方で,女性の実験参加者は,男性の実験参加者よりも被写体が男性の場合,被写体のソシオセクシャリティの態度得点を過小推定していた.このような異性に対する評価は,本人の知識を基準に判断するセルフ・アンカリング(Otten & Epstude, 2006)が働き,男女共自身の評価に引き寄せた結果の表れの可能性があるが,今後の研究課題とする.本研究では,他者のソシオセクシャリティの推定における,顔と声の影響について検討し,それらの手がかりの利用の仕方には男女差が見られることがわかった.

キーワード
ソシオセクシャリティ


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