発表

3B-087

竹取物語考察
―かぐやの心、女性の視点から。ユング心理学をもとに―

[責任発表者] 大島 裕子:1
1:放送大学

◆研究の目的◆本研究では『竹取物語』1の登場人物「かぐや姫」の心の動きに焦点をあて「日本での女性らしさ」とは何かを考察する。
◆方法◆『竹取物語』の成立と時代背景を調査し,底本の要約と現代語訳の著者を男女で比較した。次に高畑勲『かぐや姫の物語』2を調査し,従来のかぐや姫との創意と「ジブリらしさ」を考察した。さらに日本での性役割期待から翁とかぐや姫の関係とグリム童話『手なし娘』3,日本と西洋との父親像の違いを比較し,対象喪失4と父娘関係からかぐや姫の心について考察した。
◆結果◆現存伝本は『竹取翁物語』と『竹取物語』の二種類。作者や成立した年代は未詳。平安時代の子女教育を目的として書かれた。時代の古さと当時の仮名文字や物語文学の価値の低さから現存する古写本には恵まれなかったが,河合5が「物語というものは,語るのもそれを聴くことも好かれ,それなりに変貌も遂げてゆくもの」とするように書写され広く流布した。求婚説話,羽衣説話など物語の話型が多数含まれ,日本の物語文学の源流といえる。男女の訳者を比較したが現代語訳に大きな差異はない。ただし同性に寄り添い物語る6ことで読む側の印象は異なる。
高畑のかぐや姫は創作され変容したオマージュとされるが,かぐや姫の心情を語りジブリらしい女性像と重ね合わせており現代のかぐや姫像といえる。だが「日本での女性らしさ」としては異端で女性性は不完全である。
『手なし娘』は西洋的で日本の父親像とは異なる。父親は強い父性で娘の手を切り能動性を奪う。7娘は王と結婚し「銀の手」を得るが未熟な娘の心と身体は乖離し破たんする。森で母性的庇護により娘は癒され本物の手が再び生え,王をアニムスとして父親とは異なる男性性で補完される。母性原理が優位な日本の父性は背後に存在し,父娘関係は完全には切断されていない。かぐや姫は翁とは異なる男性性を獲得し自ら地上を切捨て月に戻る。ここから従来と異なる新たな視点のかぐや姫像を提示した。
◆考察◆心身のバランスが満たされ状態が憂いのない月の世界から,かぐや姫は自らの片方の性を殺(喪失)した罪により罰として竹から地上に現れた。そこで翁と嫗に愛され帝と心通わし欠けた性を再び手に入れる。完全体となったかぐや姫は自らの強い男性性で地上を断ち切り満月の夜に月へ戻る。地上に残された者はかぐや姫を喪失し悲しむ。断ち切るためには羽衣というペルソナを身に着け憂いのない存在になる必要がある。このような生き方が日本人の女性があこがれ得る強さで「日本での女性らしさ」となる。従来の『竹取物語』の構造(A-1)は,かぐや姫を中心に関係性は二次元的に広がる。かぐや姫の昇天により地上は喪失感に包まれる(A-2)。物語を円環的に捉え新たな視点から見た構造(B)でのかぐや姫は母性的で時には感情を切り離す勇気をも兼ね具え,すべてを包み込み地上の愛を月から今も見守っている。
『竹取物語』は富士の煙で終わる。昇天は神話的表現で死を意味する。だが,現代では死を選ぶことこそが禁忌である。すべてに絶望しても生きろといわれる時代に私たちは生きている。かぐや姫は自らの中に男性性を持ちつつ女性性も共存させ,生きるために月という新たなステージへとステップアップする。この強い生命力は現代の日本に求められる女性像である。かぐや姫の態度は母性原理で包まれた日本の男性には無常で冷たい。かぐや姫が帝にあてた手紙は焼かれてしまう。だが帝のかぐや姫への想いは煙となり天にのぼり,いつか月のかぐや姫に届くだろう。かぐや姫は何の憂いもなく全て受入れ私たちを見守っているから。私たち女性は自分なりのかぐや姫像を持ち,その姿に自信をもらい自らも日々研鑽し生きる。日本の社会で母性を否定することなく父性を受け入れ共存する生き方は理想的だが困難は多い。女性の社会進出を促進させるためには今までとは異なる視点が求められる。
(引用文献)1大井田晴彦『竹取物語 現代語訳対照・索引付』笠間書院,2012を底本とし,南波浩『日本古典全書 竹取物語・伊勢物語』朝日新聞社,片桐洋一『新装版 図説竹取物語・伊勢物語』集英社,1988,「初期物語の世界-『竹取物語』『伊勢物語』を中心に」,『竹取物語 伊勢物語 土佐日記 完訳 日本の古典10』小学館,1983なども参照。
2高畑勲『かぐや姫の物語』スタジオジブリ,2013。3『手なし娘』「グリム童話集2」筑摩書房,1999。4小此木啓吾『対象喪失―悲しむということ―』中公新書,1979。
5河合隼雄『イメージの心理学』青土社,1991 pp45-46。他に『家族関係を考える』講談社,1980,『子どもと教育 大人になることのむずかしさ 青年期の問題』岩波書店,1996, 『日本人とアイデンティティ』創元社,1984,『母性社会日本の病理』講談社,1997など。6中西進「竹取物語 美は人を殺す」『物語をものがたる・河合隼雄対談集』小学館,1994。7高尾浩幸「否定的コンプレックスから自立する女性性―「手なし娘」の心理学的解釈―」生活科学研究 28, 111-123, 2006-03。

キーワード
かぐや姫/女性らしさ/日本


詳細検索